投信保有期間 じわり長期化、つみたてNISAは短期化
投信観測所
投資信託の平均保有期間がじわり長期化の兆しを見せている。2020年末時点では全ファンドの平均で保有期間は2.5年となり、5年前の2年に比べ0.5年ほど延びた。保有期間の長期化がより鮮明なのはDC(確定拠出年金)専用ファンド。平均保有期間は4.4年に及び、DC制度加入者は投信の積み立て投資を継続するため、解約されにくいという仕組みを反映している。一方で、つみたてNISA(少額投資非課税制度)対象ファンド全体の保有期間は短期化傾向にある。
購入と解約口数の関係から保有期間推計
投信の保有期間は通常、個人が購入してから解約するまでの期間を指す。一つの投信を不特定多数の個人が売買するので、各個人の投信保有期間を集約した数値が投信の「平均保有期間」になる。
投信の平均保有期間として、簡便的に純資産残高を解約額で割って求める例が見られるが、この数値は本来の「保有期間」とは直接的な関係はなく、解約額が残高のどの程度の割合かを示す「解約率」の逆数にすぎない。個別投信の平均保有期間の方が運用期間よりも長くなる異常値が多発するなど、保有期間の実情に即していない。
こうした点を踏まえQUICK資産運用研究所は、投信の購入口数と解約口数の関係を追跡することで、より実態に見合った平均保有期間を推計する手法を独自開発した。
ここでは、その手法で計測した平均保有期間の全体的な傾向推移を見てみよう。
全ファンドおよびDC専用、つみたてNISA対象ファンドについて、過去10年間の平均保有期間の推移をグラフに示した(図A)。グラフから分かるように、投信市場全体の平均保有期間は15年末の2年まで短期化傾向をたどってきたが、それ以降はじわりと長期化に転じ、20年末は2.5年になった。これは、投信の購入者全員を平均すると、解約するまでに2年半保有していたことを意味する。

長期化の理由の一つとして考えられるのは、積み立て投資の普及だ。積み立て投資はいったん始めると定期的な購入を継続し、短期的な解約があまり出にくい仕組みのためだ。
DC専用ファンドの平均保有期間の長さがこれを象徴する。DC専用ファンド全体を平均した保有期間は10年前の3年から徐々に延び続け、20年末には4.4年に達している。
ところが、つみたてNISAで購入できるファンド全体の平均保有期間は短縮傾向にあり、20年末時点では2.1年と全ファンドの平均保有期間よりも短い。どういうことか。
インデックスファンドの短期売買が影響
表Bは、全ファンド・DC専用・つみたてNISA対象ファンドについて、主な投資対象の分類(日本株・海外株・バランス型)ごとに、アクティブ(積極)運用型とインデックス(指数連動)運用型に分け、20年末と15年末時点の平均保有期間を比較集計したものだ。

それぞれの平均保有期間を見比べてみると、いずれの分類でも、インデックス型はつみたてNISA対象の方が全ファンドおよびDC専用ファンドに比べて短い。20年末時点の日本株インデックス型の平均保有期間をみると全ファンドの3.2年に対し、つみたてNISA対象は1.3年という具合だ。
日本株インデックス型の個別ファンドでは、DC専用で純資産残高が最も大きい(20年末時点) 「DC日本株式インデックスファンドL」の4.4年に対し、つみたてNISA対象で残高最大の「ニッセイ日経225インデックスファンド」は1.2年と短い。
つみたてNISA対象ファンドといっても、つみたてNISA専用とは限らず、一般購入できるファンドが多い。とりわけ日経平均株価連動型のインデックスファンドは株式相場の動きとは逆張りの短期売買に活用されやすく、株式相場急落時には買われ、急騰時には売られる傾向が強い。
つみたてNISA対象の日本株アクティブファンドの平均保有期間も全ファンドに比べわずかに短い。残高最大の「ひふみプラス」の平均保有期間は1.6年という状況だ。
つみたてNISAは制度開始からまだ3年あまりしかたっていないのも関係している。つみたてNISA対象の海外株式インデックス型で残高を大きく増やしている「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は18年に設定されたばかりで平均保有期間は0.8年にとどまる。
投信市場の平均保有期間の長期化傾向が定着するかどうかは、つみたてNISA対象ファンドの動向がそのカギを握っていそうだ。
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)
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