CPIショックの次は小売りサプライズ 円安は118円視野
米ミシガン大学の11月の消費者信頼感指数は66.8と2011年以来の低水準であった。しかるに、10月米小売売上高は事前予測を上回り前月比1.7%増を記録した。3カ月連続の増加だ。小売大手ウォルマートとホームデポの決算がその実態を映す。
年末商戦に向け物流停滞でお目当ての商品が品切れになる前に消費者は購入を急ぐ。株式市場と同じくFOMO(取り残される不安感)が消費者心理を揺らす。小売業者も在庫を積み増す。問題は消費者があらかじめ決めた購入予算を守り、追加消費は控えるのか。あるいは自粛の反動で財布のひもを緩めるのか。
小売業者側も供給網確保を急ぐ。大手は自前でコンテナ船を貸し切り、混雑する大規模港湾を避け、懸案のトラック運転手不足から人数確保にも動く。しかし中小は苦戦が続く。部門別でも外食などサービス業は回復が遅れている。依然として人手不足、素材価格高騰、顧客の感染不安の三重苦に悩む。
かくしてセクター別の濃淡はあるものの、約30年ぶりの6%台を記録した米消費者物価指数(CPI)上昇率を転嫁されても消費者の購入意欲は底堅いとみえる。
消費は米GDP(国内総生産)の約7割を占めるので、JPモルガンは10~12月期の米GDP予測を早速、4%から5%に引き上げた。市場の利上げ期待は強まり、外為市場ではドル全面高となった。
円安も進行。ニューヨーク(NY)市場の通貨投機筋は、依然として1ドル=118円へのオーバーシュートを視野に、円売りを加速中だ。そもそもNY市場で「安全通貨」「通貨の王様」といえば以前から米ドルと決まっている。とはいえ、彼らのファンダメンタルズは深く考えない投機的円売買、所詮ゼロサムゲームであり、中期的には110円程度に収れんしてゆくとの筆者見解も変わっていない。
なお、CPIショックと小売りサプライズのダブル効果を受け、市場では、インフレは一時的と主張し続ける米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長に対する疑念がますます強まってきた。
インフレが一時的ではなく、利上げが後手にまわるリスクと、FRBが利上げに踏み切ってから、インフレがピークアウトして、利上げ撤回に追い込まれるリスクの2つのシナリオが意識されている。
FRB議長人事もいよいよ4日以内に発表とバイデン米大統領が明言したが、市場は冷静だ。本命パウエル現議長、対抗ブレイナード現FRB理事、どちらも金融政策に対する見解に大きな違いはないと、市場が最も懸念する金融政策の継続性は保たれるとみられるからだ。議長パウエル氏、規制強化担当副議長ブレイナード氏の組み合わせが現実的な選択であろう。

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