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パウエル氏は、株安をどこまで容認するか

米連邦準備理事会(FRB)のミッションは物価安定、雇用安定、そして市場安定にある。この3目標を同時に達成するのは容易ではない。

今年のFRBは物価安定が最優先課題。政策金利を10カ月でゼロから2%超に引き上げる姿勢だ。12日にブレイナード理事(次期副議長候補、議会承認待ち)は、利上げと資産圧縮の総合効果を重視する必要性を強調した。すなわち、資産圧縮の規模により、利上げ何回分の引き締め効果に相当するなどが精査されそうだ。その総合効果は、利上げ2%超より高く3%相当に近くなるかもしれない。

仮に短期的にそこまで引き締めれば、株価の下押し圧力が強まる事態は不可避だ。この点を計りかね、足元の米国株式市場は薄商いのなかでボラティリティー(価格変動)は大きい状態が続いている。市場参加者の相場観も、各種サーベイを見ると、強気より弱気のほうが明らかに多い。

様子見でキャッシュポジションの配分も依然高いままだ。

強力な引き締め策が株安を誘発することを覚悟している市場が最も知りたいのは、パウエルFRB議長が、どこまで株安を容認するのか、ということだ。「物価安定」を優先させるために「市場安定」をどこまで犠牲にする気か。疑心暗鬼になっている。

当のパウエル議長はもちろん「市場の安定には配慮する」との姿勢だが、これだけは、実際にやってみないと分からない。

その過程では、これまで「何でも上がる相場」とはやされ、過剰流動性相場ゆえ買われた分野が、まず売られることが望ましい。しかし、マクロ経済に「景気後退クラスター弾」を撃ち込めば、財務体質良好な企業まで巻き込まれ犠牲になるリスクがある。

それゆえ、市場の反応も「敵役はプーチンではなくパウエル」と身構える姿勢が目立つ。FRB議長と市場の蜜月は終わった。なかには「FRBには逆らえぬ」と、流れ弾被弾のダメージを最小限に抑えるべく決算ガイダンスを控えめに出す企業もある。米国市場は、これから決算期に入るが、投資家はガイダンスが当てにならないと嘆く。そもそも新型コロナウイルスとウクライナの二大不安定要素により、ガイダンス発表を回避する企業も少なくない。

コモディティー価格高騰がいつまで続くのかも、不安定要因だ。2020年の今ごろはマイナス37ドルまで暴落していた原油価格が、100ドル前後の水準まで暴騰している現状は、単なる需給・地政学的要因だけでは説明がつかない。実態は、価格変動があまりに激しいので自己勘定で原油を売買するトレーダーが激減した結果、一部の投機筋の草刈り場と化しているのだ。ニッケル売買頓挫の事例のごとく、そもそも市場流動性が低いところに、ビッグマネーが入り込むと、「金魚鉢の中のコイ」状態にもなりがちだ。

この商品先物市場の実態を理解できず、乱高下する商品価格の変動に振り回されている。これこそ投機筋の思うつぼだ。米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)は大手金融機関の原油自己勘定売買に規制をかけ、原油価格安定を図ったが、結果的には売り手と買い手をつなぐ潤滑油役も果たしてきた大手金融機関が相次いでトレーディング部門縮小・撤退に動き、市場の流動性が低下して価格変動を激化させる羽目になった。

そもそもロンドン金属取引所(LME)の事例にみられるように、ギルド的色彩の濃い商品取引にメスを入れることも必要だ。とはいえ、今となっては、間に合わない。米国の中間選挙では、商品先物価格の乱高下が庶民生活を脅かす現状の改革が一つのテーマになるかもしれない。商品価格高騰が、中間選挙さらには大統領選挙を左右しかねない異例の成り行きだ。米国商品先物取引委員会(CFTC)の対応も注目される。ひとつ確かなのは、FRB金融政策の管轄外ということである。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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