「テンバガー」、バリュー株投信普及の起爆剤に
話題の投信
株価が10倍以上になると期待される「テンバガー」銘柄。そんな大化け株を探して投資する「フィデリティ・世界割安成長株投信(愛称:テンバガー・ハンター)」が好成績を上げている。コロナショックの大底だった昨年3月に運用を始め、為替ヘッジありとなし2本の純資産総額(残高)は今年4月末時点で合計2500億円程度に増えた(図A)。

過去30年で約53倍のリターン、米国で実績
「テンバガー・ハンター」の設定来リターンは、4月末時点で為替ヘッジをする「Aコース」がプラス94.6%、為替ヘッジをしない「Bコース」がプラス97.5%。同期間の先進国株の値動きを示す代表的な株価指数「MSCIワールド・インデックス(ドル建て、配当込み、課税前)」のプラス87.7%を上回っている。
さらに長い期間の成績をみるには、同じ運用方針をとる米国籍の「フィデリティ・ロープライス・ストック・ファンド」が参考になる。30年超の運用実績をほこるファンドで、今年3月末時点のリターンは約53倍となった(図B)。同期間にMSCIワールドが約10倍、米国のS&P500種株価指数が約22倍、ナスダック総合株価指数が約30倍になったが、それらを大きく上回る運用成果を上げてきたことが分かる。

世界の割安株に投資、幅広く銘柄分散
「テンバガー・ハンター」の運用を主導するのは、この米国籍ファンドを担当するジョエル・ティリングハスト氏だ。米国の伝説的なファンドマネジャー、ピーター・リンチ氏から「最も偉大かつ成功したストックピッカーの一人」と評された人物で、3人の共同担当者とともにチームで運用にあたる。
投資対象は成長が期待できる世界の割安株。市場が見逃しているテンバガーの「原石」を忍耐強く合理的に発掘するのが投資スタイルだ。実際の組み入れ上位を見ても、話題性のある派手な銘柄は少ない。それでも設定から1年ほどで株価がすでに数倍になった銘柄もある。フィデリティ投信のシニア・プロダクト・ストラテジストの藤原嘉人氏は「運用哲学に基づく地道な銘柄選定が高いパフォーマンスにつながった」としている。
組み入れ銘柄数が多いのも特徴の一つ。3月末時点で542にのぼり、規模が小さいニッチな銘柄にも幅広く投資している。この独特なポートフォリオを支えているのが高度なリサーチ力だ。他社がカバーしないような銘柄も対象に膨大な調査分析を続けられるのは、世界最大級の情報網と専門家を抱えるフィデリティならでは。徹底した分散投資でリスクを抑えることもできる。
野村が販売、バリュー株投信は普及途上
販売会社は野村証券1社。コロナ下で対面営業が難しくなるなか、フィデリティ投信は商品説明の動画をつくったり、投資家向けにウェブ上でのセミナー(ウェビナー)を開いたりして、サポートに回った。フィデリティ・投信営業部の堀智文氏は「日本で割安(バリュー)株投信はまだまだ普及の途上。このファンドが起爆剤になる」と期待を込める。
投信業界全体で見ると、最近の売れ筋は同じ海外株式型でもハイテク関連の成長(グロース)株など華やかな銘柄を多く組み入れたタイプに絞られる。こうした人気銘柄をあえて避け、隠れた割安株に投資するファンドへ資金が集まるのは珍しい。堀氏は「長期の資産形成にはグロース株だけでなく、良質なファンドを活用してバリュー株にも分散投資をすることが重要」と話していた。
(QUICK資産運用研究所 西本ゆき)