楽天証券の久保田氏「新NISAは高シェア維持に注力」
投信観測所
2024年1月から新しい少額投資非課税制度(新NISA)がスタートする。資産運用業界に新たなビジネスチャンスが到来するなか、ネット証券大手・楽天証券の久保田誉・執行役員・アセットビジネス事業本部長に足元の状況や今後の戦略について聞いた。
――足元の状況を教えてください。

「証券業界における当社のNISA口座(一般・つみたて・ジュニア)のシェアは3割超、つみたてNISA口座のみでは5割超にのぼる(22年9月末時点)。インデックス型(指数連動型)投信を中心とした預かり資産残高の積み上げで関連収益が伸びている。投信保有者の8割弱が積み立て投資で資産形成に取り組んでいるため、投信の販売額は相場に大きく左右されず安定成長している。また、歩留まり(投資信託の年間販売額に占める同期間の投信預かり資産残高増加額)は4割と高く、回転売買や投資家の離脱が少ない。積み立てと中長期での投資意向が強いお客様が多いことが当社の特徴といえる」
「22年に当社で口座開設をされたお客様の9割近くを20〜40代の資産形成層が占めているほか、口座開設されたお客様の7割が実際にNISA制度を利用して取引をされた。この層に長く取引してもらえれば、預かり資産もそれに準じて増えていく。個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の口座数も22年12月末時点で67万口座と着実に増加し、業界2位となっている。iDeCoの残高は4000億円超で、その9割弱が投資信託などのリスク性商品だ」
――注力している分野はありますか。
「対面アドバイスへのニーズをとらえるため、独立系金融アドバイザー(IFA)チャネルにも力を入れている。口座数・預かり資産残高とともに契約アドバイザー数も順調に伸びている。IFA経由で長期・分散投資の重要性をしっかりと説明しているため、インデックス型だけでなく、アクティブ型(積極運用型)やバランス型、ファンドラップなどの提案・販売も進んでいる」
「オンラインセミナーなどを積極的に開催し、投資家への情報提供に努めている。米国一辺倒の投資など、一つのアセットクラスに集中する投資が多いことには問題意識を持っており、長期・分散投資を根気強く啓発していく。1年弱の時間をかけて資産運用の基礎を学べる『資産づくりカレッジ』を開催したり、投資家に応援したいファンドを選んでもらう『ファンドアワード』を毎年実施したりと、インデックスかアクティブかなどの型にとらわれない優良な投資手段も発信していく」
――今後の見通しについて教えてください。
「現在の口座数は860万口座まで増えており、保有金融資産もお客様によりさまざま。今まで十分なアプローチができていなかったアッパーマス層(預かり資産残高1000万円以上3000万円未満)やマスアフルエント層(同3000万円以上1億円未満)などの中間層を、どのようにカバーしていくか社内で検討を重ねている」
「『ポイント投資』や『楽天キャッシュ』などの決済手段を充実させていく。今年4月以降、電子マネーでの給与振り込みが始まるのに合わせ、楽天グループでも給与デジタル払いビジネスへの参画を予定している。さまざまな決済手段を用意することで、投資家がより気軽に投資に一歩踏み出せるような基盤づくりに取り組んでいく」
「NISA口座での大きなシェアを崩さぬよう、既存のお客様が面倒な手続きを踏まずに現行NISAから新NISAにスムーズに移行できるシステム整備を進めていく。投資枠が大きくなる新NISAでは、お客様の目的やリスク許容度によりどのような資産運用が最適なのかをしっかりナビゲーションする機能をつくっていく必要性も感じている」
(QUICK資産運用研究所 西本ゆき、平原武志)