米金融界でも「安い日本に旅行したい」 インバウンド爆発の予感
日本株には見向きもしなかった米ウォール街の人たちが、さすがに円安がここまで進行すると、家族旅行の行く先として「日本」を選択する傾向が見られる。普段、なにかとニューヨーク(NY)市場の生の情報提供でお世話になっている筆者としても、ギブ・アンド・テークの精神で、「トラベル・エージェンシー」の役割をかって出る成り行きになった。さらに、NYの友人たちの隣人やら親戚筋まで話をききつけ、筆者にアレンジを依頼してくるありさまだ。
それでも、新型コロナウイルス禍の勃発以来、NY出張も途絶えていたので、東京でじっくり話を聞くことも悪くはない。在宅勤務で時間を持て余すNYの友人たちとリモートで話す機会は増えたので、意外にも情報量は増えたのだが、やはり対面で語り合えば細かなニュアンスも伝わってくるものだ。
ここに、政府の観光促進策「全国旅行支援」が始まり、日本人の国内旅行が爆発的に増えると、インバウンド(訪日外国人)需要との共振で空前の旅行ブームになる予感がする。
円売り攻勢で大もうけしたヘッジファンドのなかにも、日本旅行希望者がいるので、ここはひとつ、日本国内でタップリ利益を還元してほしいものだ。最上級のホテルと最上級のレストランを紹介するつもりである。そして、日本の優良企業株が割安で買えることも実感してほしい。
さて、その円安だが、12日発表の9月の米卸売物価指数(PPI)が年率8.5%へわずかながらも上昇したことで、1ドル=147円が視野に入る展開だ。本日発表の米消費者物価指数(CPI)が、年率7%台まで低下すれば、円反騰、逆にPPIのごとく8%台で上昇すれば147円本格突破のキッカケとなろう。
とはいえ、CPIの「賽(さい)の目」が丁と出るか半と出るか、市場内では誰も分からない。そこにベットする(賭ける)のは、投資ではなく投機だ。筆者がハラハラするのは、そのベットに、レバレッジまでかけて個人投機家が多数参加していることだ。金融リテラシーが一定水準を満たしリスク耐性もある人ならともかく、そうではない経済に疎い素人衆まで日本人独特の横並びで新規参入してくる様相は危うい。「弟が始めたから」「会社の同僚がもうけたらしいから」。最近開設したユーチューブのチャンネルには、なんとも考えさせられる書き込みが見られる。筆者にとっては「貯蓄から投資へ」の実態を見せつけられる思いだ。株にしても、いきなり問答無用で「どの銘柄を買えばいいのですか、教えてください」とくる。業界側としては常に豊富な情報を発信しているのだが、ネットの怖いところは、都合の良い部分だけを切り取って理解して売買に走る傾向だ。
筆者が以前在籍した調査機関で、主要国の個人投資家に全く同じ質問を投げかけ比較するリサーチをやったことがある。結果は、米国人と中国人に酷似した特性が見られた。良くも悪くもリスク耐性が強いのだ。対して、日本人は、清水の舞台から飛び降りる気持ちで買った株が値下がりすると、少額とはいえ、二度と株式市場に戻ってこない。いっぽうで、「長期積み立て」には興味を示す。対して米国人や中国人は「コツコツ積み立てなど、まどろっこしい」というような回答が目立った。
なお、かくいう筆者にしても、実はドル預金をいつ円転すべきか、お茶の間で家族の質問攻めにあっている。少しでも言葉を濁らせると「偉そうなことばかりいって」と叱責される。トレーダー出身のプロはプロでリスクの怖さが身に染みているので、実は自らの資産運用は地味なものだ。

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