日銀は動かず、FRBはダメ押し利上げも視野
18日は日米対照的な市場展開の24時間であった。
日本時間の日中は日銀の金融政策決定会合で「ゼロ回答」のサプライズ。「永遠のハト」と呼ばれた日本の中央銀行のタカへの変身は容易ではない。
その後、「夜の部」のニューヨーク市場では、いよいよ恐れていた利上げ不況へ突入の兆しが相次いで発表された。17日発表の1月のニューヨーク連銀製造業景況指数は前月から21.7ポイントの大幅下落。22年12月の米小売売上高も2カ月連続の減少。同月の米卸売物価指数(PPI)前年比上昇率の6カ月連続伸び鈍化も、インフレ頭打ち傾向というより、不況の兆しとの解釈も市場には流れる。
追い打ちをかけるように、セントルイス連銀のブラード総裁は、米消費者物価指数(CPI)が下落傾向でも、「ダメ押し」の追加利上げが、あと1%ほど必要と発言。インフレはぶりかえす傾向があるので、インフレ抑制の手を緩めることはできない。次回の利上げも0.5%幅、政策金利は5.5%以上が妥当だと、米経済紙主催のウェビナーで参加者からの質問に答える形で持論を語った。もとより引き締め過ぎのリスクは覚悟するスタンスを強調している。
1月9日に、このウェビナーに招待されたサンフランシスコ連銀のデイリー総裁も、穏健派だが、ターミナルレート(利上げの終着点)は5~5.25%と明言していた。クリーブランド連銀のメスター総裁も18日に、同金利水準以上まで引き上げ・維持する考えを明らかにしている。日銀とは対照的に、米連邦準備理事会(FRB)はまだ動く気満々である。
とはいえ、日米両市場の共通点は、市場予測とのギャップが鮮明に出ていること。
日本では市場が一部国内メディア報道にも振り回され、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)撤廃モードにあふれていたが、結果的に市場の先走りとなった。
米国では、FRB高官が執拗に政策金利5%以上を語るが、市場は年内にも利下げを見込む。18日のNY市場では、10年債利回りが3.4%を割れて低下。2年債と10年債の逆イールド幅は0.7%と拡大傾向が顕著だ。これほど、あけすけにFRBに反旗を翻し、正面衝突もいとわぬ市場の強硬姿勢も珍しい。両者の言い分には、ぞれぞれ一理あり、投資家の視点では、官と民、どちらが正しいのか、判断が悩ましい限りだ。
なお、米経済は打たれ強く、インフレを抑え込み回復に向かう「軟着陸」シナリオも根強い。アトランタ連銀が国内総生産(GDP)の実質成長率を予測する「GDPナウ」が18日には3.5%をつけている。ブラード氏も、失業率の記録的低水準や求人件数の記録的高止まりを例に挙げて、5%超の政策金利でも軟着陸は可能とも述べている。ちなみに同氏は、中国経済再開や欧州経済回復の事例を挙げ、潜在的インフレ加速要因と位置付けている。
さて、日本市場注目の円相場だが、18日「昼の部」で、日銀の「予想外」の政策維持を決定したゼロ回答を受け、1ドル=131円台と円安に振れたが、夜の部ではドル金利安に引っ張られ一時127円台に上昇する円高となった。日銀とFRBのはざまで揺れている。2022年には世界の主要中銀の利上げ傾向に対して、緩和を維持する日本は周回遅れと言われ、円安が進行した。しかし、23年に入るや、欧米ではインフレ減速だが、日本は周回遅れで、CPIが上昇している。円高というより世界的傾向のドル安に同調しているようだ。
株式市場では、昼の部では「不動の日銀」が買い材料になり、夜の部では、軟着陸を信じたいが信じ切れずFRB高官発言におびえる米株が大きく下げた。現在のグローバル市場の断面図を見せつけられた感がある。

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