SBI証券の上原氏「新NISA対応、9月にはメド」
投信観測所
2024年1月から新しい少額投資非課税制度(新NISA)がスタートする。資産運用業界に新たなビジネスチャンスが到来するなか、ネット証券大手・SBI証券の上原秀信・執行役員常務・投資信託部長に足元の状況や今後の戦略について聞いた。
――足元の状況を教えてください。

「2020年春の新型コロナウイルスショック以降、口座数・預かり資産残高・月間販売額の増加が加速しており、20〜40代の若年層や女性のお客様が大きく増えた。現在の全体の口座数は約960万口座で、積立口座は約150万口座と着実に増加している。預かり資産残高は、投信のみで約4兆9000億円、上場投資信託(ETF)などを含めると6兆円を超えた(22年12月末時点)。年初から2月までの投信販売額は4000億円ほどだ」
「昨年10月以降、NISA口座を他社から当社へ変更する投資家が急増している。投資家はポイント還元などのメリットがある金融機関を選ぶようだ。また、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の加入者278万人のうち、当社のお客様は74万人超でシェアトップ(22年12月末時点)。選べるファンドのラインアップが豊富であることが評価されている。新NISAとiDeCoを合わせると欧米並みの非課税枠となるので、両制度の併用を含め一緒に推進していくのも一手だ」
――「SBIラップ」の進展はどうですか。
「22年3月に8種類の資産に投資できる投資一任のロボアドバイザー(ロボアド)サービス『SBIラップ』の提供を開始した。SBIグループ傘下のFOLIO(フォリオ)の『4RAP』をインフラとした人工知能(AI)搭載の全自動資産運用サービスで、SBI証券の口座からそのまま投資を始められる。口座申し込みは5万件を超え、預かり資産残高は『SBIラップ×(クロス)』を含め、300億円(23年3月1日時点)まで伸びた。『SBIラップ×(クロス)』は22年10月からSBI新生銀行を通じて提供を開始した対面型のファンドラップだ。個人のリスク許容度に応じて5つの運用スタイルから1つを選べるサービスで、順調に拡大している」
「『SBIラップ』は8資産に分散投資するが、相場環境に応じてダイナミックなアロケーション(資産配分)をする点が特徴。一つの口座で複数の商品を併せ持って運用できるしくみであるため、商品性の異なるラップシリーズを展開していくことで、投資家のライフプランなどに応じて複数のラップを保有してもらうことも可能になるのではないかと考えている。併せて、新NISAへの対応も検討中だ」
――今後の見通しについて教えてください。
「まずは『ネオ証券化(手数料ゼロ化)』を進め、口座数の拡大を目指す。22年12月末時点で、オンラインでの国内株式取引の委託手数料収入が営業収益に占める割合は11.7%まで低下(22年9月末時点では12.3%)しており、ここに依存せずとも収益が立つようになってきた。現在の約960万口座から将来的にはメガバンク相当の3000万口座を獲得することも夢ではない」
「新NISA対応にも注力する。つみたて投資枠が年間40万円から120万円に拡大したインパクトは大きい。成長投資枠の240万円も含めて考えると、実質的には年間360万円となる。当社の金融機関としての総合力をもって、この年間360万円を獲得しにいく所存だ」
「24年1月の新NISAスタートに向け、今年どれだけNISA口座を獲得できるかがカギとなる。24年分NISA口座の金融機関変更手続きが始まる今年10月以降に備え、9月末までに対応策のメドをつける予定だ。生涯投資枠1800万円は、アッパーマス層にも十分アプローチできる大きさであり、対面ビジネスでも投資の基本である長期・積み立て投資を推進していく考えに変化はない」
(QUICK資産運用研究所 西本ゆき、平原武志)