日本株ETFでも「PBR1倍割れ」、ETFのPBRを算出
投信観測所
東証が打ち出した、PBR(株価純資産倍率)が1倍割れの上場企業(対象はプライム市場とスタンダード市場の全社)に対して意識改革を促す案をきっかけに代表的投資尺度の「PBR」への注目度がいつになく高まっている。昨年からバリュー(割安)株が復調してきた流れの中で、低PBR銘柄がさらに買い上げられる動きもみられる。
それでは、個別株に分散投資するファンドのPBRは現在、どんな状況にあるのか。東証上場の日本株上場投信(ETF)を例にとり、あまり知られていないファンドのPBRを算出してみた。
PBR1倍割れは4分の1
日本株指数への連動を目指して運用する40本のETFについて、PBRを計測。PER(株価収益率)、自己資本利益率(ROE)とリターンも併せて表にした(表A)。

計測の対象は、純資産残高が10億円以上で、組み入れ銘柄情報(銘柄名や組み入れ比率など)を運用会社の自社サイトで一般向けに開示しているETF。そのうえで、同一指数に連動するETFは純資産残高が最大の1本に限定した。
ファンドのPBRは、組み入れ銘柄ごとのPBRを基にして調和加重平均と呼ぶ手法で求めることができる。具体的には「組み入れ銘柄ごとのPBRの『逆数』を組み入れ比率で加重合計した値」を計算し、「組み入れ比率の合計」をその数値で割った値として算出する。
PERも同様の調和加重平均により算出。PBRとPERが分かると、ETFのROEは「ROE=PBR÷PER」の関係式から求めることができる。
その結果、日本株ETFの中で、最低PBRは「NEXT FUNDS 電力・ガス (TOPIX-17) 上場投信」の0.54。最高は「グローバルX テック・トップ20-日本株式 ETF」の2.39だった。
このうち、PBR1倍割れのETFは11本あり、全40本の約4分の1。PBR1倍割れには、バリュー株の代表である電力株、銀行株や高配当関連の指数連動型ETFが並ぶ。
PBRは「日経平均>TOPIX」
日本株市場を代表する株価指数の「日経平均株価」と「東証株価指数(TOPIX)」連動型のETFに目をやると、PBRはそれぞれ1.61と1.17となり、日経平均連動型の方が高い。
日経平均とTOPIXのどちらも組み入れ銘柄の半数あまりがPBR1倍割れだが、PBR1倍割れ銘柄の組み入れ比率を合計するとそれぞれ、約22%、約35%と日経平均の方が少ないのを反映している。
東証の要請案には理論的な背景がある。企業の稼ぐ力を示すROEはPBRと密接な関係を持ち、PBRが高まるとROEが向上しやすいという理論だ。
そこで、表の40本のETFについてPBRとROEの関係をグラフにしてみたところ、PBRが増すとROEが高まるといった単純な関係は見られない(グラフB)。

ただ、PBRとROEを「PBR1倍」と「一般にROEとして期待される最低水準の8%」で区切ってみると、PBR1倍割れではROE8%未満が5本と半数を占めるのに対し、PBR1倍以上だと10分の1の3本に減る。PBR1倍割れの企業が減ることで日本株市場全体の稼ぐ力の底上げにつながりそうだ。
もっとも、PBRと過去のリターンの関係をグラフでみると、過去1年リターンでは低PBR優位が鮮明なのに対し、過去5年や10年の長期リターンではお互いの関係は定かではない。
こうした現状の下、今後、PBR1倍割れの企業数が減少するとPBRとROEの関係やリターンがどのように変わっていくのか。日本株ETFのPBRやROEを通じてその状況をつかむことができる。
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)