パウエル氏とFTX社CEOをつなぐ時代の糸
日本時間1日早朝3時台から米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の講演と質疑応答。さらに、同じく7時台から暗号資産(仮想通貨)交換業大手、米FTXトレーディングの最高経営責任者(CEO)サム・バンクマン・フリード(愛称SBF)氏のオンライン記者会見があった。
前者は、市場がいいとこ取りして株高要因になった。後者は、あまりにお粗末で幼稚な発言のオンパレードであった。
まず、パウエル議長の講演は、この2週間ほどFRB高官発言が相次ぎ米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバー内の微妙な亀裂があらわになるなかで、今週末から12月のFOMC会合前のブラックアウト期間に入る、というタイミングで開催された。
市場には、パウエル氏が、次のFOMCでの利上げ減速を明示したことが、ヘッドラインとして流れ、久しく聞くことがなかった「ハト派的発言」を特に米株式市場は「熱烈歓迎」した。
しかし、前後の文脈は、11月FOMC時の発言と全く変わっていない。なんとしてもインフレ抑制をやり遂げるとの決意表明。金融政策にはラグがあり、その効果点検のため、利上げペースを落とす。重要なのは、利上げの速度ではなく、到達点の金利水準の高さと、高金利水準をどこまで継続するか、である。
米労働市場の過熱感も変わらない。雇用統計の新規雇用者の前月比増加数をみれば、今年1~7月の平均は45万人、8~10月の平均は29万人。この数字は、望ましいと思われる10万人をはるかに上回っている。
以上の文脈の中から、「利上げ幅の縮小」だけが市場を独り歩きしたわけだ。いいとこ取りの危うさが漂う。今週発表の雇用統計で、早速、市場の解釈が試されよう。
次に、今や市場の注目度がパウエル氏を上回るほどのSBF氏の初のオンライン会見。
最初から30歳の若手CEOの目線は落ち着かず、発言ぶりもしどろもどろであった。顧客資産が分別管理されていたのか、との重要な部分も、逃げ腰が目立ち、どうみても説明責任を果たすとは言い難い。FTX社と関連投資会社アラメダ・リサーチの関係についても、アラメダ社は任せていた、の一点張り。アラメダ社幹部と同居していたことを突かれても、「ごめんなさい、私の不徳の致すところ、申し訳ない」と謝罪の言葉ばかりだ。あまりのレベルの低さに、ただただ、あきれ果てるばかり。
問題は、このような人物を、シンガポール政府系ファンドのテマセク・ホールディングスやカナダのオンタリオ州の年金基金、ソフトバンクグループなどが、信用して出資していた事実であろう。だますほうも悪いが、だまされたほうも、なんともバツが悪かろう。
量的緩和とゼロ金利の超金融緩和を引き継ぎ、実行役となったパウエル氏。その政策下、カネ余りだが運用難という状況で運用実績を強いられた人たちの実態。一つの時代の後始末を象徴する二つの会見であった。

豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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