FOMC初日、株高も中国経済再開もインフレ要因か
1月31日には米雇用コスト指数が発表された。四半期に一度の発表だが、2022年10〜12月期は前期比1.0%上昇で、7〜9月期の1.2%から鈍化した。雇用コスト指数は約7割が賃金・給与、約3割が福利厚生からなる。企業の人件費を包括的に捉えるので、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長もブレイナード副議長も、労働市場のスラック(需給の緩み)をより正確に反映する労働統計として重視している。労働市場の過熱化に一石を投じる統計値には両氏もご満悦であろう。
27日に発表された、これもFRBが重視する12月の米個人消費支出(PCE)物価指数も、コアで年率4.4%と順調にインフレ率低下トレンドの裏付けとなった。
とはいえ、パウエル議長がお気に召さぬ面もある。1月31〜2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)直前のニューヨーク(NY)株高だ。かねがね、FRBは0.75%利上げを4回連続しても、金融環境が緩く、引き締め効果が不透明であることを懸念していた。米ゴールドマン・サックスがまとめる金融市場の逼迫度合いを測る金融環境指数(FCI)が直近で下落傾向を示したのは、引き締めが十分ではないことを示す。今後の金融政策の要点検事項である。
当然、株式市場からは、FRBはインフレ鎮静化のために株安もやむなしとの見解か、との批判も噴出する。
パウエル氏は引き締め過ぎのリスクは覚悟のうえと語ってきた。
5%超のターミナルレート(利上げの最終的な到達点)に達した場合には、政策効果を点検するが、なお潜在的インフレ再燃リスクが生じれば、利上げ打ち止めどころか、ダメ押し(insurance)利上げも辞さずの構えとも解釈されている。
さらに、FOMC直前に中国経済の再開期待が市場でははやされている。しかし、これはインフレ要因にもなるのでFRBとして素直には歓迎できない。おそらくFOMC後の議長記者会見でも質問が飛ぶと思われるが、中国発のインフレが利上げ判断に影響する可能性は否定できまい。
刻々推移する経済環境だが、FRBはこれまで同様に徹底したインフレ抑制策を堅持することは間違いない。FRBに逆風が吹けば、昨年のジャクソンホールでのパウエル議長強弁の再来が市場では懸念される。頑として利上げ強行路線を譲らぬ姿勢を一方的に8分間まくしたて、質疑応答も受けずステージを降りた。あの光景はいまだに市場関係者の記憶に鮮明に残っている。
今回も、特に市場の年内利下げ織り込みを質問で突かれるとかなり強硬に否定する場面も考えられよう。FRBへの信認が揺らいでいるので、議長としては凜(りん)とした対応が求められることになりそうだ。
結局、FRBの言い分も市場の言い分も既に分かっているので、あとはそれをどのような単語で表現するかの問題である。

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