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インベスターリターンのクセ、積み立て投資では約2倍に

投信観測所

保有者損益率(インベスターリターン)は投資信託を売買した投資家が獲得した平均的なリターンを示す指標だ。

投信の売買は通常、ある一時点に一括して行われるのではなく、時間の経過とともに連続して行われる。その点を踏まえ、インベスターリターンは、ある時点ごとの売買資金が現在までの期間にどれだけ増減したかを反映した平均的リターンという特徴を持つ。

また、インベスターリターンは計算で求められるリターンが取引ごとの資金額の大小に左右されるため「金額加重収益率」とも呼ばれ、「内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)」という呼び方もある。通常、年率換算した平均リターンを使う。

ただし、計算値には一種の「クセ」があり、積み立て投資のリターンとして計算する場合や一括投資リターンとの大小比較に用いる場合には、注意が必要になる。

積み立て投資、対元本リターンの約2倍

積み立て投資リターンをインベスターリターンとして求める考え方があり、毎月の積立額と積み立て年数から目標資産額を達成するための所要リターン(年率)をインベスターリターンで計算するなど、積み立て投資のシミュレーションサイトにおいても活用事例がある。

この場合、あるファンドに対する不特定多数の投資家からの実際の資金流入額を基にした一般的なインベスターリターンではなく、一人の投資家があるファンドを毎月1万円など、一定額購入する積み立て投資を行ったとした場合のインベスターリターンを求めることになる。

仮に毎月1万円ずつ2年間積み立てしたときのインベスターリターンが10%だったとする。詳しい計算式は割愛するが、この場合2年後の資産時価は「26.54万円」になる。元本合計が24万円でリターンが年率10%なので、積み立て投資2年後の資産時価は「29.04万円(=24万円×1.1倍×1.1倍)」と計算しがちだが、これは誤りだ。

インベスターリターンは「元本合計」に対するリターンではなく、1カ月ごとずらして投資した「月ごとの元本1万円」に対する「現在までのリターンの平均」の意味を持つからだ。

上記例で元本合計24万円に対し時価が26.54万円になった場合、元本合計に対する時価のリターンは年率で約5.2%。インベスターリターンのほぼ半分に縮小する。

このように、インベスターリターンで計算した積み立て投資リターンは、元本合計に対する積み立て投資リターンの約2倍になるという計算上のクセがある。

元本合計に対する積み立て投資リターンは、現在の基準価格を平均購入単価で割ったリターンに一致する。このため、インベスターリターンでは平均購入単価と基準価格の直接的な関係がつかみにくいことになる。

上昇局面でも積み立て投資が有利になるクセ

実際のファンドで確認してみよう。日本株相場が上昇局面にあった2011年末から2015年5月にかけ、主な日本株ファンド5本について、毎月一定額で購入し続けたときのインベスターリターンと元本合計に対する積み立て投資リターンを計算してみた(表A)。

表からわかるように、5ファンドともインベスターリターンが対元本合計リターンの約2倍となっている。

さらに、11年末に一括投資した場合のリターンと比べてみても、5本中4本のインベスターリターンが一括投資のリターンを上回っている。積み立て投資のデメリットの一つとされる「上昇局面では一括投資に比べ不利」に矛盾しているのもクセといえる。

インベスターリターンが一括投資リターンを上回るかどうかは計測期間やファンドの値動きによってまちまちだが、日本株ファンドだけでなくどのファンドでも計測期間によらず、インベスターリターンが対元本合計での積み立て投資リターンの約2倍に近くになることが計算式からも導くことができる。

一括投資リターンとの大小比較でもクセ

不特定多数の投資家の売買を反映した一般的なインベスターリターンにもクセがある。ファンド設定後に基準価格の急落があった場合、設定来など急落時を含む現在までの期間で計測したインベスターリターンは一括投資リターンを上回りやすい傾向がある点だ。

08年9月のリーマン・ショックで世界の株式相場が暴落した。その少し前の07年3月に設定されて以降、ほぼ毎月プラスの資金流入が続いてきた「セゾン資産形成の達人ファンド」を例にとり、次のように期間を変えてインベスターリターンを計測してみた。そのうえで、一括投資リターンとの大小関係を比較した。同ファンドの基準価格はリーマン・ショック後に5000円前後まで急落している。

<インベスターリターンの計測期間:始点を変え終点は固定>
◇計測の始点は設定月の07年3月末以降、翌4月末……といった形で1カ月ずつずらしていく
◇計測の終点はすべて現在(22年6月末時点)
◇一括投資は計測始点で一括投資

こうして始点を変えて計測したインベスターリターンと一括投資リターンとの差をグラフ(B)にしてみると、計測始点が設定時から08年後半くらいまでの場合はインベスターリターンが上回っているが、それ以降を計測始点にすると下回る期間が長く続いている。

一方、設定以降08年後半までの同ファンドへの資金流入額はこれまでの全資金流入額の2%程度にすぎない。そのため、この期間を含めて測った現在までのインベスターリターンが同ファンドをこれまでに売買した投資家全体の平均的リターンを示すとは言えそうにない。

このようにインベスターリターンを使って、一括投資リターンや他ファンドの運用成績と比較する場合には、設定来だけではなく、いくつかの期間に分けて計測する、計測期間をそろえるなど様々な角度から評価するのが適切となる。

インベスターリターンは特有のクセを理解したうえでの活用が大切になる専門的な指標といえる。

(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)

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