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仕組み債の販売、迫られる「経営レベルの議論」

投信観測所

仕組み債の販売に力を入れてきた金融機関に戸惑いが広がっている。金融庁が6月末、投資信託などの販売会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果を公表し、仕組み債の取り扱いを続けるべきか否かについて「経営レベルにおいて議論すべきだ」と求めたからだ。事実上の販売自粛要請を受け、金融機関は対応を迫られている。

「購入する意義ほとんどない」と指摘

金融庁は「モニタリング結果」の中で、仕組み債の商品性について「極めて複雑で、理解することが困難」「リスクに見合うリターンが得られないことが多い商品」「中長期的な資産形成を目指す一般的な顧客ニーズに即した商品としてはふさわしいものとは考えにくい」などと問題点を列挙。金融機関の販売姿勢に関しても、「顧客が実質的に負担するコストが開示されていない」「金融機関側の説明が不十分」と指摘した。

金融庁が5月に公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2022」でも、仕組み債の一種である他社株転換社債(EB債)のリターン分布について、「頻度は少ないものの損失率の裾野が広い」と分析。さらに「株式に代えてEB債を購入する意義はほとんどない」とたたみかけた。

実際、仕組み債については購入者から「単なる債券を購入したつもりだった」「低リスク商品を希望したのに仕組み債を購入させられ損失が発生した」といった苦情が金融庁にも多く寄せられているという。

目先の対応、真意見誤るリスクも

今回の両リポートを受けて、一部の金融機関の間では「どこまでが許容範囲か」を探る動きがあると聞く。リスクを低減すればいいのか、コストを安く抑えれば大丈夫かなど、仕組み債の販売を続けるための「落としどころ」を見いだそうとする動きだ。しかし、こうした目先の対応は金融庁の真意を見誤るリスクもはらむ。

金融庁はこれまで販売会社に対し、「真の顧客ニーズを踏まえて販売した結果なのか」という一貫した視点に立って問題提起を行ってきた。通貨選択型などの複雑な投資信託、外貨建て一時払い保険、仕組み債へと販売の主力が短期間に変遷するなか、いわば「もぐらたたき」を繰り返してきたようにも見えるが、金融庁の基本的な姿勢は何も変わっていない。

コスト開示検討や販売停止の動きも

金融機関が今後、「経営レベルの判断」として仕組み債の販売を継続する場合には、組成コストも含めた手数料などの情報提供を充実させた上で、想定顧客層を相当絞るといった対応が実務的に最低限必要となるだろう。その前に、改めて経営理念に立ち返ることも避けて通れない。仕組み債に限らず、自らの顧客基盤や目指す姿に照らし、どのような商品・サービスを、どの顧客層に、どのように提供すべきかについていま一度、顧客の立場に立って検討することが求められている。

投資家が負担する仕組み債のコストについては、金融庁の求めに応じ開示を検討する動きが広がりつつある。また、販売方針に関しても、あるメガバンクが再購入を含めた販売の全面停止を6月末に表明するなど、新たな動きが出てきた。

金融庁は「モニタリング結果」で前向きな変化にも言及した。ビジネスモデルや経営戦略を見直し、顧客獲得に奏功している金融機関があると指摘した上で、「顧客による(金融機関)選択のメカニズムは実現し始めている」との見方を示した。顧客視点で良質なサービスを提供し、安定した顧客基盤と収益の確保につなげていくことができるか、金融機関の真価が問われている。

(QUICK資産運用研究所 長沢敏夫)

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