衆議院選挙の小選挙区、10増10減 減員県は地盤奪い合い
衆院の小選挙区の数を5都県で計10増、10県で計10減する「10増10減」を反映した改正公職選挙法が18日、成立した。公布後1カ月の周知期間をへて施行する。次期衆院選から新たな区割りを適用する公算が大きい。

東京都で5、神奈川県で2、埼玉、千葉、愛知各県で小選挙区が1ずつ増える。宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の10県は小選挙区が1ずつ少なくなる。
線引きを見直したのは全国25都道府県の計140小選挙区におよぶ。1つの地方自治体を極力分割しないようにした。北海道や大阪府などは小選挙区の数はこれまでと同じだが、区割りは変わる。
小選挙区のあいだの「1票の格差」を2倍未満に是正する目的がある。2020年の国勢調査の結果をもとに人口比を反映しやすいとされる議席配分方法「アダムズ方式」で都道府県ごとの小選挙区数を算出した。

地域によって各党は候補者の調整を迫られる。
10減の対象県のうち、滋賀、岡山、山口、愛媛は21年の衆院選で自民党か自民党系の無所属が小選挙区の議席を独占した。現職が引退などをしない限り、誰かが小選挙区を明け渡すことになる。
各地ですでに地盤の奪い合いが始まっている。例えば自民党の有力者がひしめく山口は小選挙区が4から3に減る。1区は高村正大氏、2区は岸信夫首相補佐官、3区は林芳正外相がそれぞれ現職議員だ。
安倍晋三元首相の死去に伴う山口4区の補欠選挙は21年衆院選の1票の格差を巡る裁判の判決が23年3月15日までに確定し、衆院解散がなければ23年春に現行の区割りで実施する。
仮に補選で自民党が4区の安倍氏が持っていた議席を守った場合には、4人の現職のうち1人が県内の小選挙区から出馬できなくなる。
候補者調整を巡るかけひきは自民党内だけで収まらない。連立政権を組む公明党は東京、埼玉、千葉、愛知の1都3県の計4選挙区で新たに公認候補の擁立を模索する。
小選挙区選出の議員をいまの9人から上積みする狙いがある。石井啓一幹事長は「自民党との協議によるが、積極的な擁立を目指したい」と意欲を示す。
自民党は新設した小選挙区すべてで候補者を立てることを基本方針に据える。自公の調整も容易でないとの見方がある。
大都市部には非自民勢力の得票率が比較的高い地域もある。立憲民主党など野党も新しくできる小選挙区の候補者選びを急ぐ。
比例代表ブロックは定数が「3増3減」となる。東京ブロックで2、南関東ブロックで1増える。東北、北陸信越、中国ブロックで1ずつ減る。
抜本改革へ協議の場 自民、地方選出議員の減少を懸念
今回の法改正で10増10減を適用しても、将来また1票の格差が2倍以上となる可能性は高い。地方で人口が増えるなどしない限り、小選挙区が減る傾向は続く。
自民党内の法案審査の手続きで、減員県選出の議員を中心に「地方の声が国政に届きにくくなる」と不満の声が噴出した。
衆院の政治倫理・公選法改正特別委員会は改正公選法の採決の際に、選挙制度について「国会で抜本的な検討を行う」との付帯決議をまとめた。
速やかに与野党で協議の場を設置するほか、2025年の国勢調査結果が判明する時点をめどに「具体的な結論を得るよう努力する」と明記した。地方選出の議員が一気に減る激変を緩和する方策を模索する。
1票の格差は09年、12年、14年の3回の衆院選でいずれも2倍以上の状態が続いた。最高裁は全都道府県にまず1議席を割り当てる「1人別枠方式」が格差の要因だと指摘した。
1人別枠方式による区割りの衆院選で「違憲状態」との判決が続出した。国会は16年にアダムズ方式の導入を決めた。アダムズ方式による格差の是正を進めるべきとの意見のほか、地方への配慮を探る動きもある。