自民党アジア窓口に重鎮 韓印・菅氏、中国・二階氏
関係改善の流れ下支え
自民党がアジア外交の窓口を刷新した。政党や経済界との接点になる主要な議員連盟などの会長に菅義偉前首相や二階俊博元幹事長ら重鎮を起用する。政府間交渉で扱いにくいビジネス上のパイプ役や関係改善の流れを下支えする。
議員外交の役割は国・地域によって様々だ。
例えばベトナムは政党間の交流に重きを置いている。中国やインドは首脳とのパイプが肝になる。公式な外交関係がない台湾の場合は政党間交流が意思疎通の主なルートになる。
議連などに実力者がつけば外務省などの政府間の対話を補完しうる。
日韓、麻生氏が地ならし
議員外交の効果が出たのは最近では韓国だ。政財界との交流を促す「日韓協力委員会」会長の麻生太郎副総裁が訪韓し、2022年11月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。

「国交正常化後で最悪」といわれた状況下で外相をはじめ政府高官の派遣が難しかった実情がある。麻生氏が尹氏の「本気度」をつかみ、11月中旬にカンボジアでの日韓首脳会談につなげた。
超党派の「日韓議員連盟」の額賀福志郎会長も同じタイミングで尹氏と会談し、問題解決を後押しした。
議連の新会長には菅氏が就く。菅氏は3月27日に「日韓関係の正常化に向けた思いを(尹氏から)直接聞き、強く印象づけられた」と述べた。
首相経験者の会長就任は森喜朗元首相以来、13年ぶりだ。韓国側は窓口に政治力が大きい人物を要望していた。日本側にも前首相をあて関係改善に前向きなメッセージを示す狙いがある。
菅氏は官房長官時代に慰安婦や徴用工を巡る問題に携わった。
首相になってからは懸案だった東京電力福島第1原子力発電所事故の処理水放出を決断した。訪韓時にはなお横たわるこの問題などを扱う可能性がある。
台湾はビジネスや安全保障分野の色が濃い。
超党派の議員連盟「日華議員懇談会」(古屋圭司会長)の幹事長に3月9日、萩生田光一政調会長が就いた。その後に台湾新幹線を運営する台湾高速鉄路は日立製作所と東芝の日本連合から新型車両12編成を購入すると発表した。
独シーメンスなど欧州の企業連合が優先とされていた案件だった。22年夏以降、日華懇の幹部が蔡英文(ツァイ・インウェン)総統との会談で直談判した案件とみられている。
台湾の民進党と自民党は政務調査会の中に台湾問題を扱うプロジェクトチームを持つ。「与党版の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)」といえる枠組みで防衛政策上の課題を扱う。

日中友好議員連盟の会長は二階氏になる。林芳正前会長の外相就任に伴って空席が続いていたポストだ。近く議連総会で正式に決める。
習近平氏と面会・会談の実績
二階氏は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と複数回面会・会談した経験を持つ。習氏率いる新執行部には自民、公明両党ともに接点が乏しい。岸田文雄首相は「建設的で安定的な日中関係をつくる」と表明しておりその支えとなる。
20年代には中国による台湾有事などのリスクが取り沙汰される。政府は備えを強化しつつも中国とのビジネスの関係は維持する絵を描く。関係が悪化しても意思疎通できるパイプとして議連への期待が高まる。
インドとの交流促進に取り組む「日印友好議員連盟」の会長は細田博之衆院議長から西村康稔経済産業相にかわる。西村氏は議連の副会長と事務局長を務めていた。
菅氏は今年1月、日印間の友好親善活動を進める「日印協会」の会長を故安倍晋三元首相から引き継いだ。菅氏はモディ首相とは昵懇(じっこん)の仲でもある。
インドは人口14億人の巨大市場を抱え、グローバルサウスと呼ばれる新興国のリーダーになる存在だ。各国が結びつきを強めようとするなかで首脳とのパイプは外交上の資産といえる。