スマホ決済の接続料「透明化を」 公取委が調査報告書

スマートフォンアプリを使う送金・決済サービスの普及に向け、公正取引委員会は1日、報告書をまとめた。フィンテック企業が銀行と対等な立場で競争できる環境整備を求めた。フィンテック企業が銀行口座を利用する際にかかる手数料が下がれば新サービスが生まれやすくなる。銀行などが寡占する金融分野で新規参入者との競争を促しキャッシュレスの普及につなげる。
日本の送金・決済サービスは銀行などが加盟する「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」をはじめとして、金融機関が構築してきたインフラが土台となっている。
スマホのQRコード決済で口座に入出金する際には、決済事業者が銀行などに手数料を払う必要がある。料金が高止まりするなどの問題があると競争が阻まれ、消費者の利便性も高まらない。
公取委は新しい金融サービスを巡る競争環境を点検するため、2022年3月〜23年2月に調査した。QRコード決済などを手掛ける資金移動業者46社と、銀行と預金者を仲介する家計簿アプリを含む電子決済等代行業者50社、銀行120行から回答を得た。
今回の調査で独占禁止法に違反する恐れのある事案はなかった。競争を保つために改善を目指すべき課題は複数あった。例えばフィンテック企業が銀行のシステムとつなぐ際の接続料だ。
公取委は20年の調査で、NTTデータがつくり、銀行と決済事業者を橋渡しする「CAFIS」と呼ぶシステムの利用料が高止まりしていると指摘した。その後、利用料は下がり、銀行の負担も減ったが、一部の資金移動業者は「どの銀行からも(接続料の)値下げが行われなかった」と今回の調査で答えた。
ある銀行は値下げに応じられない理由として資金洗浄(マネーロンダリング)対策などのコストがCAFIS利用料の値下げ分を打ち消すくらい上昇していると説明した。公取委は「接続料の根拠を説明することが望ましい」と指摘した。

送金や決済を巡り、フィンテック企業と銀行を対等な立場に近づける動きはある。全国銀行協会は22年10月、フィンテック企業による全銀システムへの加盟を解禁した。27年にはシステムを全面刷新し、技術の仕様が公開された「オープン系」システムに切り替えてコストを下げる計画だ。
公取委はこの動きをめぐって「事業者間の競争を促進に資するものと評価できる」としつつも「決済システムの安全性を前提に利便性の向上に資する運用方法などの見直しを行っていくことが望ましい」と注文をつけた。
海外でも金融分野で外部参入を促す取り組みが進む。欧州では16年に「PSD2(決済サービス指令)」が発効した。銀行に対し、外部とのシステム接続のルールである「API」を他の金融機関やフィンテック企業に公開するよう義務付けた。半ば強制的に競争を促したことで、英国のモンゾなどのデジタルバンクの成長につながった。
米国ではフィンテック企業と金融機関の間に立ってAPIのインフラを提供する「ゲートキーパー」と呼ばれる業種の役割が大きい。銀行とフィンテック企業がいちいち接続交渉をしないで協業できる。
政府は今春、給与を決済アプリで受け取る制度を解禁する。多様な事業者がサービスを競い合う環境にあるかどうかの一つの試金石となる。