石油備蓄放出、3月20日以降に 10万キロリットル分想定

経済産業省は27日、国家備蓄石油を放出するための具体的手続きを発表した。今回は約10万キロリットル(63万バレル)の売却にとどまり、入札を経て2022年3月にも放出する。米国の要請に応じ、各国と協調して原油価格の抑制を狙うが、すでに11月に放出を発表した時点で市場は効果を織り込んでいるとみられる。身近なガソリン価格などが下がる効果は見通せないままだ。
日本の国家備蓄は10月末時点で国内需要の145日分ある。政府は2日分程度にあたる合計約67万キロリットル(420万バレル)の放出を検討している。今回は、11月に国家備蓄の売却を決めてから初めての手続き公表だった。
2022年2月9日に入札をして売却先の事業者を決める。受け渡しは3月20日から6月30日の間で売却先の事業者と調整する。対象は鹿児島県志布志エリアの基地からで、もともとはオマーン産の原油だ。
米バイデン政権が日本や中国、インドなどに備蓄原油の放出を求めたことに応じる。日本のほか中国、インド、韓国、英国が協調する。米国は戦略石油備蓄から5000万バレルを放出すると決め、このうち1800万バレルの売却を12月17日から始めた。韓国も23日、22年1~3月に317万バレルを放出すると決めた。

放出を呼びかけた米国が実際に売却を始めると見極めるまで、日本は具体的な手続きに踏み込まなかった。手続きを開始しても実際の売却は早くて3月で、暖房需要の大きい真冬の放出は見送った。
効果は依然、見通しにくい。米政府が放出を発表した11月23日、ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は一時下がったが、1バレル78.50ドルと前日比で2%上昇して取引を終えた。
その後に新型コロナウイルスのオミクロン型の感染が広がり、需要低下の懸念から原油価格は下落。現在WTIは70ドル台前半で推移している。

日本の20日時点のレギュラーガソリンの店頭価格は全国平均で1リットル165.1円で、6週連続で値下がりしている。オミクロンの影響が波及した。当面は170円の大台を超さないが、7年ぶりの高値が続きそうだ。
日本の放出に向けた手続きについて、専門家からは効果は薄く意義が乏しいとの指摘が上がっている。石油流通に詳しい桃山学院大学の小嶌正稔教授は「実際に放出しても価格への効果はまったくないだろう。足元では欧州を中心に新型コロナの感染者数が増加し、原油需要減少の傾向が明確になっている」と話す。
エネルギーに詳しい伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリーの伊藤敏憲代表は「米国や日本など主要国が在庫を放出するとした時点でマーケットは反応した。すでに市場で織り込まれている」と指摘する。
経産省も放出の検討段階から産油国の増産がなければ問題は解決しないとみていた。対米関係を重視し協調すると決めたが、売却量による需給の緩和ではなく発表による市場介入の意味合いが強い。
日本の石油備蓄法で国家備蓄の放出を認めるのは、供給が途絶する恐れがある場合や災害時に限っており、価格抑制対策での売却はできない。一方、備蓄の一部は新しい石油と入れ替えるために定期的に売却している。
この石油の入れ替えを前倒しする。経産省は「油の入れ替えが主目的」とすることで、法律に反せず諸外国と協調した事実上の価格抑制策を講じる。価格を抑えるための国家備蓄の放出は初めてとなる。
米国に協調した異例の放出とはいえ、脱炭素を掲げながら原油価格を下げようとする政策は産油国を刺激するリスクもある。
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