多様な働き方、制度なお途上 裁量労働にM&A業務追加

あらかじめ決めた時間を働いたとみなす裁量労働制について、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会は27日、金融機関でのM&A(合併・買収)業務を追加する案を了承した。企業側の求めた自動車とIT(情報技術)の融合サービスや働き方改革を企画する業務の追加は見送った。一律に時間で管理するのではなく、実情に合った多様な働き方を認める改革はなお途上だ。
裁量労働制には自社の事業立案・調査などを担う「企画型」と、弁護士やゲームソフト創作などの「専門型」がある。M&Aは専門型の20職種目として追加する。23年に政省令を改正し、24年に施行する見通しだ。専門型の追加は約20年ぶり。
銀行と証券会社で顧客企業のために事業承継や資本提携、会社分割、株式譲渡を考案したり、助言したりする業務を加える。企業側の代表が専門性の高さなどを説明し、労働問題の専門家らの支持も得た。経団連幹部は「M&Aは戦略立案をはじめ、仕事の進め方や時間配分で裁量が大きい」と追加を評価した。
メガバンクのM&A担当者らが主な適用対象となる見通しだ。メガバンクからも「契約直前と案件がない時期で繁閑の差が大きい。M&Aに関わる弁護士や会計士が裁量労働制の対象となっている中、銀行だけ働き方が違って障害になる面もあった」と歓迎する声が上がった。
日本の労働法制は1日8時間労働など一律の時間管理で労働者の健康を守ることを基本としている。繁閑の差が大きい人や個人の事情に応じて柔軟に働きたい人のニーズに合わないため、政府は職種を指定して例外的に裁量労働を認めている。
適用者は現在、専門型で労働者(パートタイム除く)のわずか1.2%、企画型では0.2%にとどまる。デジタル化など経済の構造変化が急速に進んでいるにもかかわらず、過去15年以上にわたって同水準だ。柔軟な働き方が広がらないままでは、成果を重視した人事評価を徹底できず、生産性も上がらない。
分科会では企業側からITを使って自動車の使用状況を一元管理するシステムの開発、機械の生産ライン改善、人事部門の働き方改革の企画担当なども加えることを求める声が上がった。それぞれ新サービスを生み出したり、企業全体の生産性を高めたりすることにも役立つ業務だが、適用は見送りになった。
労働時間を正確に把握できない人が増え、長時間労働を助長すると懸念する労働者側の抵抗が強かった。厚労省の調査によると、裁量労働の適用者の方が1日の労働時間が21分長いという。
厚労省は裁量労働の適用者に対し、深夜勤務の回数を制限するなど健康確保の仕組みを強化する方針も決めた。企画型だけに求めていた適用時の本人同意は、専門型でも新たに義務化する。

裁量労働に対する適用者自身の満足度は高い。厚労省の19年の調査では8割超が満足と回答し、公私の両立や労働時間の削減、能力の発揮に役立つと評価した。
パーソル総合研究所の調査では、会社での評価が高く昇格スピードが速いと自認する人ほど転職先の条件として裁量権を求める傾向が強い。世界的に高度人材の獲得競争が激化するなか、裁量労働を拡大できるかどうかが企業や国の競争力にも影響する。
過剰な長時間労働を抑えつつ、裁量労働を広げるには企業自身の変革も欠かせない。一部の人への業務負担の集中に拍車がかかる恐れもあり、個人の業務や責任を明確にするジョブ型の拡大が解決策になる。
成果を的確に評価し、報酬や人事で報いることも必要だ。メガバンクからはM&A業務の裁量労働制適用にあたり「成果をしっかり給与に反映しないと人材流出につながりかねない」との声も上がった。
関連企業・業界