中国人権「深刻な懸念」、衆院が決議採択 北京五輪直前
「中国」名指しはせず

衆院は1日の本会議で、中国政府による新疆ウイグル自治区やチベットなどでの人権状況に懸念を表明する決議を与党と立憲民主党、日本維新の会などの賛成多数で採択した。4日の北京冬季五輪の開幕を前に、与党と主要な野党が足並みをそろえて人権を重視する姿勢を示す狙いが ある。
決議は香港や南モンゴル(内モンゴル自治区)も挙げ「深刻な人権状況への懸念が示されている」と明記した。「力による現状変更を国際社会に対する脅威と認識する」とも強調した。
中国を念頭に「国際社会が納得するような形で説明責任を果たすよう強く求める」と訴えた。
自民党は野党の賛成を得るため、中国を名指しして批判するのは避けた。「非難」という文言も盛り込まなかった。人権を巡る実態については「人権侵害」でなく「人権状況」と表現した。
日本政府にも「国際社会と連携して深刻な人権状況を監視し、救済するための包括的な施策を実施すべきだ」と呼びかけた。人権問題は国際社会の正当な関心事項であり「一国の内政問題にとどまるものではない」と唱えた。
岸田文雄首相は首相官邸で記者団に「普遍的な価値観や人権を大事にする政策や外交を進めたい」と述べた。決議を「しっかり受け止める」と話した。
与党は全会一致を目指したが、れいわ新選組は決議に賛成しなかった。れいわ新選組は声明を発表し「人権侵害を行う国にはそれがどこであれ最も厳しく、はっきりした表現で指摘し、改善を求めなければならない」と指摘した。
松野博一官房長官は1日の記者会見で「人権をはじめとした普遍的価値が中国において保障されることが重要だ」と語った。「日本の立場はこれまでも様々なレベルで中国側に直接働きかけている」と説明した。

決議を巡っては自民党内で北京冬季五輪の開幕前に採択すべきだとの意見が強まっていた。自民党は当初、決議で「中国」を明示し「人権侵害非難」といった表現を用いる検討をしていた。これらを削除した背景には公明党への配慮がある。
公明党は結党時の1964年に日中国交正常化を掲げるなど中国との関係が歴史的に深い。自民党は2021年の通常国会でも中国の人権侵害を非難する決議を採択しようとしたものの断念した経緯がある。このときも公明党との調整難航が理由だった。
国会決議は全会一致を原則とする。自民党内には「中国を非難する姿勢を明確にすべきだ」との声も出ていたが、五輪開幕前に採択するには文言修正はやむを得ないと判断した。
中国を名指して非難した国会決議に、中国が沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定した13年の例はある。与野党で対中政策に温度差がある以上、全会一致で中国を非難する決議はハードルが高い。
米欧は中国の人権侵害を非難する姿勢を明確にしてきた。
米国務省は21年3月、世界の人権状況に関する報告書をまとめた。バイデン政権の公式見解としてウイグルでの弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定した。
「中国政府が計画した組織だった暴力であり、ジェノサイドに該当する」。フランス国民議会(下院)も今年1月、中国での人権弾圧についての決議で中国を明示して批判した。
岸田文雄首相は人権外交を政権の優先課題の一つに掲げる。21年11月には中谷元・元防衛相を国際人権問題担当の首相補佐官に任命した。
米欧主要国には人権侵害を理由にして外国当局者に制裁を科す「マグニツキー法」がある。日本でも法整備の機運はあるものの政府内で具体的な議論は進んでいない。