情報通信、人材・インフラづくり急ぐ 経済安保に力点
永田町政策マップ
「日本は新型コロナウイルス禍で手痛いデジタル敗戦を喫したことを忘れてはならない」。自民党のデジタル社会推進本部が4月にとりまとめた提言「デジタル・ニッポン2022」は冒頭でこう指摘した。
海外諸国に比べて日本の行政機関はデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいない。新型コロナ対策の個人への現金給付などの対応で後れをとった。
企業も巣ごもり消費を背景に米国の「GAFA」などIT(情報通信)企業大手が大きく業績を伸ばした。日本は産業の育成が進んでおらず、需要を取り込めたとはいえない。

自民党内で通信、放送、情報分野の政策を中心的に担うのは情報通信戦略調査会だ。会長を務める佐藤勉元総務相は「国の研究開発投資が足りなかった。今後は産業の発展を国としてサポートする」と強調する。
特に政府が株式を保有するNTTを通じて「GAFAに肩を並べる企業を育てるべきだ」と訴える。NTTがNTTドコモを完全子会社化した点にも触れ「その準備をしている」とみる。
産業の発展には市場の開拓が欠かせない。かつて同調査会の会長だった川崎二郎氏の長男・秀人氏は「日本には海外で戦うグローバルサービスがない」と語る。原因に「デジタルへの関心が低く人材が少ない」点をあげる。
通信行政を監督する総務省は旧郵政省を起源の一つとする。郵便事業などと同様に、通信を公益事業として扱ってきた歴史が長い。
2022年の情報通信白書は「日本のデジタルインフラは国際的にみても普及が進んでいる」と記載する。初代デジタル相の平井卓也デジタル社会推進本部長は「構想力の差がそのまま(海外との)格差となっている」と指摘する。
平井氏は21年のデジタル庁発足を主導してきた。同氏とともにデジタル政策の実務を長く担当してきた牧島かれん前デジタル相や、NTTドコモ出身の小林史明前デジタル副大臣らIT政策に通じた議員は着々と増える。
「デジタル・ニッポン2022」には非代替性トークン(NFT)や次世代インターネット「Web3(3.0)」などの政策提言が並んだ。実現するためにインフラや市場などの土台づくりが問われる。
小林氏は「制度に触らず予算で解決しようとしたことがデジタル化の遅れにつながった」とみる。「新しいコンテンツ産業を生むためのインフラづくり」として、デジタル化の進展に沿った法規制や通信網となる海底ケーブルの整備を訴える。
ハード部門の育成を支えるのは党の情報産業振興議員連盟だ。会長は額賀福志郎氏が務める。メンバーには経済産業相の経験者も目立つ。
NTTの前身の日本電信電話公社の時代に通信機器を供給してきたNECや富士通といったかつて「電電ファミリー」と呼ばれた企業も入った業界団体から要望を聞く。
デジタルの技術が進展するほど経済安全保障の体制整備がいっそう問われる。情報漏洩などの懸念が残る通信機器で国内メーカーの育成も不可欠になる。