ガソリン、危うい価格統制 補助金27日に初の発動

経済産業省は25日、ガソリンや灯油などの燃料価格を抑制する対策を27日に初めて発動すると発表した。石油元売りに補助金を配って卸値を抑え、給油所での小売価格の上昇に歯止めをかける。当面はガソリンなら全国平均で1リットルあたり170円水準となる理屈だが、店頭での価格を決めるのは本来は給油所だ。価格統制になりかねない危うさがある。
松野博一官房長官は25日の記者会見で、27日以降に「小売価格の上昇も順次抑制されていく」と説明した。「抑制効果が出るか経産省でしっかりと確認を進め、原油市場の動向を注視したい」と語った。
補助金の額は1リットルあたり3.4円。24日時点の価格170.2円のうち基準額170円を超過した0.2円と、ドバイ原油価格の直近の相場の動きをもとに見込まれる原油上昇分の3.2円を合算した。元売りに対し、補助金を原資に卸値の値上げを3.4円分抑制してもらう。消費者は27日以降、平均170円でガソリンを購入できるようになるという理屈だ。

ガソリンのほか、軽油、灯油、重油も価格抑制の対象とする。経産省によると24日調査時点の1リットルあたりの全国平均価格は軽油で150円、灯油で110.4円だった。軽油や灯油などへの補助金はガソリンと同額とするため、今回はそれぞれ1リットルあたり3.4円となる。
補助の金額は原油コストの増減に応じて毎週水曜日に見直す。仮に2月2日にさらに原油コストが1円上昇すると見込まれるなら補助額も1円上乗せし、4.4円とする。補助の上限は5円だ。
激変緩和措置と位置づけるため、基準額は4週間ごとに見直され、4週間後に171円、さらに4週間後に172円と1円ずつ引き上げる。だが足元ではウクライナをめぐるロシアと米国の緊張が高まるなか情勢次第ではさらなる急騰も懸念される。こうした事態を想定した対応ではない。
制度の期間は3月末までで、2021年度補正予算で計上されたのは800億円だ。1リットルあたりの補助金を3.4円のままだとしても、3月まで続けると予算が数十億円規模で足りなくなる。経産省は途中で打ち切るか別の財源で補うか検討する。
ガソリンの小売価格は給油所が個々に判断して決める。17日時点の調査で、全国で最も高かった長崎県は176.3円で、最も安かった宮城県は162.4円で、地域によって相場は異なる。
出光興産系の特約店は「価格は周りの給油所を参考にして値決めする。数円安くなっても焼け石に水だ」と話す。
経産省は1月31日から約3万カ所に及ぶ給油所や軽油・灯油の販売店の全数調査に乗り出し、補助金が小売価格に適切に反映されているか確認する。周囲の給油所と異なる値動きをしていれば現地調査もして実効性を確保する。
石油流通に詳しい桃山学院大学の小嶌正稔教授は「給油所は卸値の上昇を転嫁しきれていないと思われ、一定の利幅確保に動くだろう」と見込む。「補助金は市場メカニズムを壊しかねない。企業努力や市場競争を前提としていないように映る」との懸念も示した。
3月末以降の対策も検討課題だ。脱炭素の流れから、化石燃料を採掘するための新規投資は世界中で進んでいない。需給は逼迫しやすく、原油価格が今後も高騰する可能性は否めない。
野党からはガソリンにかかる税金を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結を解除すべきだという主張が出ている。経産省内部では脱炭素をめざすうえでガソリン価格の大幅な引き下げに慎重論も根強い。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「ガソリン価格とその税率のありようについて根本的な議論を進めておくべきだった」という。
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