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脳・心疾患の労災、基準緩和し認定しやすく 厚労省

厚生労働省は22日、脳・心臓疾患に対する労災認定の報告書案を示した。残業時間が「過労死ライン」とされる月80時間に達しない場合でも、休息時間や心理的負荷などを含めて総合的に労災にあたるかを判断するよう求める。同省が2001年に通達した基準を20年ぶりに見直し、労災を認定しやすい環境を整える。

同省の「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」に提示した。7月にも開く次回の検討会でまとめる。

過労死ラインは、残業時間が①病気の発症直前1カ月に100時間②発症前2~6カ月間の月平均が80時間――とされている。新たな評価方法では、これらに近い水準の残業をしていて、労働時間以外の負荷が認められる場合は「業務と(病気の)発症との関連性が強いと評価できる」と判断する。

従来の基準でも「就労態様の諸要因も含めて総合的に評価されるべき」と定めていたが、残業時間のみで判断されやすいとの指摘があった。19年度に脳・心臓疾患で労災認定された事例のうち、残業時間が80時間未満だったのは全体の約1割の23件にとどまる。

新たな評価方法では残業時間以外の要因が反映されやすいようにする。例えば、退社から次の出社までの「勤務間インターバル」が11時間未満かどうかを判断の補足として加える。睡眠の短さや疲労感、高血圧などが関連するとの見方を示した。休日の少なさや、ノルマといった心理的ストレスなども例示した。

これまで「精神的緊張」と表現していたところを「心理的負荷」に変更し、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを明記した。福岡大学の所浩代教授は「残業のように数値で測れない対人関係の心理的負担も要素として明確にしたのは意義がある」と評価する。

東洋大学専任講師の北岡大介氏は「(今回の)基準緩和により労働者側に申請の動きが強まるかもしれない」と分析する。労災申請を検討していても、会社側から残業時間が基準に達していないと説明を受けて諦めるケースがこれまであったという。

見直し後は、残業時間にばかり着目した判断を企業がとりにくくなる。遺族からの申し出が積極的になり、認定件数が増える可能性がある。

一方で報告書案は、時間外労働の基準を月80時間とする方針は維持した。5月には長時間労働などが原因で家族をなくした遺族や弁護士が記者会見を開き、基準を65時間に見直すべきだと訴えた。世界保健機関(WHO)も週55時間以上働く人は週35~40時間の労働者に比べ脳卒中や心疾患のリスクが高くなるとの研究結果を発表している。

検討会の座長を務める大阪大学の磯博康教授は、基準を引き下げる「エビデンスやデータがない」と指摘する。残業時間数に応じて罹患(りかん)率がどう変化するかを調査するには、一定規模の人の睡眠や勤務時間を何年も記録する必要があるほか、残業時間以外の要因が多く、予測値を出すのも難しいという。

過労死問題に詳しい川人博・弁護士は「発病につながる様々な要素を多角的に考慮することが大事だ。実情にあった判断をしてほしい」と話す。新型コロナウイルス下で在宅勤務が広まり「労働時間の証明が今までより難しくなる」といい、これまで以上に個々の事情に配慮するよう求める。

19年4月に施行された働き方改革関連法は、労使合意がある場合でも時間外労働は月45時間、年360時間以内にするよう定めている。ただ複数月の平均が80時間以内であれば一時的に45時間を上回ることも認めている。「80時間」の目安をどう捉えるかは引き続き議論が必要になっている。

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