規制改革会議、デジタルに照準 新体制の議長に夏野氏

政府の規制改革推進会議は23日、2022年夏の答申に向け新体制で議論を再開した。新しい議長にはKADOKAWAの夏野剛社長が就いた。新型コロナウイルス下で、行政手続きをはじめ医療分野など日本のデジタル化の遅れが浮き彫りとなった。IT(情報技術)分野に精通する夏野氏を改革の推進役に据え、出遅れ挽回を急ぐ。
菅義偉首相は同日午後、オンライン形式の会議に出席し「規制改革は菅内閣の重要課題の一つだ。悪しき前例主義にとらわれず国民目線であるべき姿を考える」と強調した。年内の中間とりまとめを指示した。

具体的な改革項目は引き続き、デジタルとグリーンが中心になる。デジタルは行政手続きのオンライン利用率の引き上げやオンライン診療の加速、グリーンは再生可能エネルギーが接続しやすい送電網のルール見直しなどだ。農業ベンチャーの円滑な資金調達や地方活性化、子育てなども重点分野に挙げた。
オンライン診療が再び議題になるのは、コロナ下でのこれまでの議論を経てなお、改革の余地があるからだ。
オンラインでの初診は20年4月に特例措置として解禁され、今年6月に「コロナ収束後も恒久化する」という方針が閣議決定された。初診はかかりつけ医による診療を原則として、健康診断の結果など患者の情報が得られる場合も認めた。対象疾患や診療報酬など具体的な内容を詰めるのはこれから。積み残した課題の筆頭格だ。
厚生労働省の21年4月時点の調査によると、電話も含めた遠隔診療に対応する医療機関は全体の15%程度で、初診については6%程度にとどまる。規制緩和に一部踏み込んでも普及には至っていない現実が横たわる。
構造的には医師会などは依然、対面診療を重視する立場を貫く。規制改革推進会議は利用者の目線に立ち、今後の具体的な制度設計に積極的に関わっていく考えだ。それでも抵抗は強いとされ、どこまで踏み込めるかは見通しにくい。
行政手続きのオンライン化も「道半ば」の域を出ない。対面撤廃の前提となる押印の99%は廃止され、行政手続きの98%を25年までにオンライン化する目標も6月に閣議決定された。
課題の一つとして、年間約600万件の申請がある失業給付手続きを巡り、改革が先送りになった経緯がある。積極的な就職の意思があることが給付の条件となっており、厚労省がここでも「対面」での確認が必要だと主張している。転入届も自治体の窓口での手続きが求められている。
規制改革会議は、過去2年議長を務めた小林喜光氏(東京電力ホールディングス会長)が退任。後任に夏野氏が選ばれ新体制になった。
夏野氏はオンライン診療の解禁を巡る調整過程で、慎重姿勢だった厚労省に緩和を迫った一人だ。内閣府幹部は「一貫して『とがった』発言をする人。世間への発信力も強い」と期待を寄せる。
会議の委員の数は19人から10人に減らし、意思決定をスピードアップするという。夏野氏を含め10人中8人が再任となり、継続性も重視した。各省庁や業界団体からの抵抗や手法をよく知る人のほうが適任と判断したようだ。
受け付けが殺到したため20年11月から停止していた「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」は、23日に再開した。国民から規制改革の意見を募り政策に反映する。
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