憲法改正、竹中治堅氏「9条改正に許容度高まる」
参議院選挙2022「私の視点」(5)

竹中治堅・政策研究大学院大教授「憲法審査会で議論を着実に」
参院選で各党が憲法改正の具体的な論点や項目を公約に記す。政権交代が実現した2009年衆院選で自民党は憲法改正を公約したものの具体的な内容には触れていない。当時の民主党はマニフェストで憲法改正をくわしく掲げなかった。
改憲そのものに反対という勢力が減り、各党が政策課題として改憲を提示するようになったのは大きな進歩ではないか。他方で各党の改憲項目には隔たりがあるのも事実だ。
自民党は4項目を挙げているが、自衛隊明記や緊急事態条項など強調する項目によって他党の反応も変わってくるだろう。
ウクライナ危機によって国民の安全保障への関心が集まり、9条改正や自衛隊の明記に国民の許容度が高まってきたと感じる。ただ政策の優先順位を考えた際に限られた政権の政治資本をどこまで消費できるだろうか。
岸田文雄首相は「新しい資本主義」やデジタル分野の規制改革などの政権の看板政策に取り組む。こうした平時の政策課題に加えて今は新型コロナウイルス、ウクライナ情勢や物価高という有事の対応にも追われる。
政策課題が多く改憲を今後の政治日程にのせるのは難しいのではないか。首相は「喫緊の課題だ。できるだけ時間をかけずに国民に選択していただく機会をつくるべく国会も努力しなければいけない」と語る。
各党が合意する改憲案をつくり短期に改憲を実現させる体力と覚悟が首相にあるのか。選挙後も憲法審査会で議論を着実に進めていくのが現実的な政治の解ではないか。
詫摩佳代・東京都立大教授「緊急事態条項の議論必要」

参院選で憲法を巡り9条への自衛隊の明記や緊急事態条項の創設を公約した党もある。大型の国政選挙は今後しばらくない。ロシアのウクライナ侵攻は国際秩序を揺るがす危機だ。9条を含め憲法をどうすべきか議論する必要がある。
国民投票法の改正など手続き論が中心だった憲法審査会が憲法改正の中身の議論に移ったのは一定の前進だ。世論調査をみると国民のあいだで改憲を議論すべきだという声が高まる。
与党と一部の野党とで日本を取りまく安全保障に関する現状認識に隔たりがあるのは気になる。悪化する現状への共通認識が必要で、そのうえで憲法やその解釈を変えるのか、法整備で対処するのかといった論議を積極的に進めてほしい。
緊急事態条項は欧州で新型コロナウイルスの感染拡大時に適用した事例があった。日本は法改正などで対症療法的にしのいできた。飲食店が自粛を不当に求められるなど強制力を行使しない弊害もあった。創設の可否の議論は必要になる。
多様化する脅威へ日本は柔軟に対応できない。たとえば現在の水際対策は新型コロナに重点を置いており新たな感染症は想定しているとはいえない。
安全保障の面で北朝鮮などが思いもよらない手段をとってくるかもしれない。参院選は幅広く安全保障を考える機会になってほしい。
【竹中治堅さんのひとこと解説付き記事はこちら】

2022年夏の参議院選挙(6月22日公示・7月10日投開票)は岸田文雄首相にとって事実上、初めて政権運営の実績が評価される場となりました。開票結果やニュース、解説などをお伝えします。