予備費、巨額の支出常態化 物価高対策に3.4兆円決定

政府は20日、2022年度予算の新型コロナウイルス・物価高対策予備費から3兆4846億円の支出を決めた。災害などに備える一般予備費も含む累計の予備費支出額は5.2兆円を超え、上期で過去最大となった。予備費は国会の議決を経ずに政府が閣議決定で使い道を決められる。「便利な財布」として巨額の支出が常態化している。

22年度予備費の支出額は累計で5兆2715億円となる。上期(4~9月)の支出額としては、20年度の約3.9兆円、21年度の約2.5兆円を上回り過去最大。21年度の通年(5兆666億円)をすでに上回った。
20年度にコロナ予備費を創設してから毎年度5兆~10兆円規模の計上が続く。経済危機対策など特定目的の予備費は過去にもあったが、額は最大1兆円程度だった。一般予備費も通例3000億~5000億円だが、22年度は補正で4000億円増額し、計上額は計9000億円に膨らんだ。
20日に支出を決めた予備費の使い道は、石油元売りに配るガソリン補助金の12月末までの延長経費(1兆2959億円)や病床確保などの目的で都道府県に配る「緊急包括支援交付金」の積み増し(8265億円)など、既存の施策の延長や増額が目立つ。ガソリン補助金には価格形成の市場メカニズムを壊し、脱炭素の取り組みに逆行するとの批判がある。
困窮世帯への5万円給付にも約8500億円支出する。住民税非課税の約1600万世帯が対象で、全世帯の約2割を占めるとみられる。非課税世帯は市町村が名簿化済みで、申請なしで支給する「プッシュ型支援」が可能だ。政府は「迅速性を重視するとこの基準になる」と解説する。
線引きの妥当性に異論もある。政府関係者によると、非課税世帯は年金受給者の4~5割が該当し、働き盛りの30~50歳は約1割にとどまる。同じ収入でも年金受給者は収入への控除が大きく、非課税世帯になりやすい。給付対象が高齢者に偏りやすく、基準として適切かは疑問が残る。
プッシュ型支援をする場合、住民税非課税世帯か、児童手当の給付対象世帯の2パターンしか事実上、手段がない。海外では個人の所得情報を行政サービスに活用することが珍しくなく、進化に乏しい日本の給付実務が浮き彫りになっている。
予備費は災害など不測の事態に対応する例外的な予算だ。安易に使われれば補助縮小などの出口論を遠のかせかねない。鈴木俊一財務相は20日の記者会見で「国民の命と暮らしを守る観点から適切な対応だ」と強調した。
コロナ・物価高予備費の残額は1.2兆円強で、今後編成する22年度第2次補正予算で増額する可能性もある。厳しい精査が求められる。