防衛力強化へ「研究・インフラ予算活用を」 首相が指示

政府は20日、防衛費の増額に関する有識者会議の2回目の会合を開いた。岸田文雄首相は防衛力の強化に向けて科学技術の研究開発や公共インフラの予算も活用し、省庁横断で取り組むよう関係省庁に検討を指示した。国防関係の予算を広くとらえる新たな算定基準を詰める。
首相は「防衛体制の強化に資する研究開発の推進や公共インフラの整備・利活用を大いに進めるべく具体的な仕組みを早急に検討してほしい」と述べた。
「防衛省や海上保安庁のニーズを踏まえたうえで関係する予算がうまく活用されていくことが重要だ」とも強調した。次回の会議での報告を求めた。
鈴木俊一財務相には必要な財源確保の検討状況を次回会議で説明するよう要求した。
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は佐々江賢一郎元外務次官ら10人の有識者で構成する。20日は松野博一官房長官や林芳正外相、浜田靖一防衛相、斉藤鉄夫国土交通相ら関係閣僚が出席した。
政府全体の研究開発予算のうち防衛省分の割合は数%で推移する。2023年度予算の概算要求は4%だった。5割弱の米国と差があり、1割弱の英国やフランスと比べても低い。
軍民両用(デュアルユース)技術の研究成果を取り込んで世界の戦い方の変化に適応しなければ抑止力を維持できなくなる。有識者から「科学技術と防衛の担当省庁が遮断されている。防衛省が関与できる仕組みをつくる必要がある」との発言があった。
自民党は防衛費を巡り北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に求める国内総生産(GDP)比2%を念頭に増額を主張する。NATOは軍民共同開発で軍事部分を明示できる場合は国防費にカウントする。
港湾や空港などのインフラにも省庁の縦割りを打破した施策が要る。自衛隊の艦艇などによる施設の使用を想定して体制を整えなければ、有事の対応に支障がでかねない。
財務省によると19年の公的固定資本形成(公共投資)で日本の予算額はGDP比3.31%で、2%台の米国や英国、ドイツ、フランスを上回る。このうち防衛施設整備分は同0.03%で、米英など各国を下回る。防衛用途に使う比率が低い。
防衛省や自民党の一部には既存経費を国防に資するとして取り込めば歳出増加を抑える動きにつながるのではと懸念する声がある。有識者のひとりは「『水増し論』との批判を避けるため、インフラや研究開発に防衛省の意見を反映すべきだ」と唱えた。
財源は国民全体で負担するのが望ましいとの意見もある。法人税の増税案には「成長と分配の好循環に水をささないように」との主張があった。