対ロシア「中国は責任ある役割を」 林氏、中国外相に
東・南シナ海や尖閣「深刻な懸念」

林芳正外相は18日、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相とテレビ会議方式で協議した。ロシアによるウクライナ侵攻を非難し「中国は平和と安定の維持に責任ある役割を果たすべきだ」と指摘した。東・南シナ海や沖縄県尖閣諸島周辺の中国の活動への「深刻な懸念」を伝えた。
両外相の協議は2021年11月に電話して以来で、70分間ほど話した。ウクライナ侵攻や北朝鮮の相次ぐミサイル発射を踏まえ、日本側から開催を求めた。ロシアを巡る責任への言及に王氏がどう反応したかは両政府とも公表していない。
林氏は「日中間には多くの課題や懸案がある」と提起した。国際社会の緊張感が高まっていると述べ、建設的で安定的な関係構築へ努力する必要があると言明した。
王氏は「緊密な意思疎通をして両国関係の正しい方向性を把握したい。目下の日中関係は理想的とは言えない」と語った。前回協議に続き林氏の中国訪問を呼びかけた。
岸田文雄政権は対中国で安定的な関係構築をめざし「言うべきことはしっかり言う」との外交方針をとる。9月に日中国交正常化50年の節目を控え、関係悪化は避けたいものの中国の軍備増強は米欧諸国の非難の的になっている。

第2次安倍晋三政権下では経済的な力を増す中国との協力強化を探った。19年6月に習近平(シー・ジンピン)国家主席が日本を訪れ、日本政府は20年春の国賓来日を要請した。
中国はその後、強権主義的な動きを強めた。新型コロナウイルスの感染拡大も加わり、国賓来日は延期したままメドがたっていない。日本外務省の説明によると、18日の外相協議で習氏の来日に関するやりとりはなかったという。
林氏はロシアの行動は「国際法の明確な違反だ」と批判した。台湾海峡の平和と安定の重要性を訴え、中国の軍事活動に「重大な関心」を示した。中国が東アジアで力による一方的な現状変更に及ぶ懸念が念頭にある。
中国は米国に対抗するうえで対ロ関係を重視する。国連の安全保障理事会と総会でのロシア非難の決議をそれぞれ棄権した。ブリンケン米国務長官は3月、中国がロシアに軍事支援を検討しているとの憂慮を表明した。

この時期に中国が日本側の外相協議の要請を受けた背景はなにか。バイデン米大統領の来日が22日、日米豪印の「Quad(クアッド)」首脳会議が24日に迫っていることがあげられる。
中国国内には日米首脳会談など一連の日程への警戒がある。中国共産党系メディアの環球時報は6日付の社説で「日本はアジア太平洋版NATOの案内役になるな」と論評した。
中国外務省の説明によると、王氏は外相協議でクアッド首脳会議を取り上げた。「日米は中国の主権と安全、発展の利益を損なうべきではない」とクギを刺した。
「日本側は最近、台湾など中国の核心的利益と重大な関心事に関わる問題で消極的な動きが目立つ。一部の政治勢力は理由もなく中国を攻撃し、両国関係の根幹を揺るがしている」とも触れた。
北朝鮮も外相協議の議題になった。林氏は北朝鮮の非核化に向けて国際社会が一致して対応する必要があると強調した。北朝鮮の核・ミサイル問題の対処で緊密に連携すると申し合わせた。
林氏は中国での新型コロナの感染状況を踏まえ、在留邦人の安全確保や日本企業の正当な経済活動の保護などを促した。2月に北京の日本大使館員が中国当局に一時拘束された事案について謝罪と再発防止を要求した。
早大の青山瑠妙教授は「米欧が対中抑止政策をとるなか、日本も中国に厳しい姿勢を取らざるをえない」と分析する。協議開催を「バイデン氏の来日前に中国の行動に懸念を示すことで日本の立場を直接示すことができた」と評価した。
北朝鮮への影響力を持つ中国との連携維持が必要だとも言及した。