岸田首相、インド太平洋のインフラ・安保支援750億ドル

【ニューデリー=竹内悠介】岸田文雄首相は20日、訪問先のインドで演説し「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現に向けた新たな推進計画を表明した。グローバルサウスと呼ばれる途上国のインフラ整備などを支えるため、日本が2030年までに官民で750億ドル(およそ9兆8000億円)以上を投じると発表した。
政府開発援助(ODA)を拡充し、2019年に20カ国・地域(G20)で確認した「質の高いインフラ投資」の原則を進めると訴えた。中国が広域経済圏構想「一帯一路」を掲げて途上国への巨額のインフラ支援を進めていることに対抗する。
首相は途上国支援の一環で、同志国の軍への安全保障面での無償支援も進めると提唱した。軍用資機材の提供などを見込む。これまで日本の途上国支援は非軍事のODAに力点を置いてきた。
インド政府系シンクタンクのインド世界問題評議会(ICWA)主催の会合でスピーチした。インドはグローバルサウスのなかで影響力が大きい。首相はプラン実現に向けて「インドは不可欠なパートナーだ」と強調した。
ウクライナ情勢に伴う物価高やエネルギー高を踏まえ、食料調達や再生可能エネルギーの導入などでも協力を深めていくと呼びかけた。

途上国支援を巡っては中国の支援を受けた国が多額の債務を抱え、中国が港湾などの使用権を得る「債務のワナ」が問題視されている。
首相は演説で、中国が金融支援をした後に港湾の権益を取得したスリランカでの例に言及。「不透明で不公正な開発金融を防ぐルールづくりは国家の発展に必要だ」と指摘した。
安保分野では海や空での航行の自由の確保や法の支配に基づく国際秩序の強化を促す方策を列挙した。警戒管制レーダーの供与や衛星情報の共有を進め、ドローンなどの新技術の開発でも連携する。
力による一方的な現状変更を認めないと改めて主張し「経済的な威圧をしないことも経済関係に不可欠だ」と説いた。
安保面での無償支援には米国の安保戦略に歩調を合わせる狙いがある。米国は軍事力だけでなく経済やサイバーを含めて同盟国や友好国の能力を生かす「統合抑止」を掲げる。海洋進出や軍備増強を進める中国への抑止力を高め、台湾有事のリスクに共同で対処する。
首相はロシアのウクライナ侵攻に触れ、FOIPの理念について世界の分断や対立ではなく協調を導くと発言した。「陣営づくりをしない、価値観を押しつけないことだ。単一、複数の大国による『極』ではない」と唱えた。