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読み解き「16カ月予算」(2) 成長への道のり、険しく

政府の2022年度当初予算案は、一般会計総額が107兆5964億円と10年連続で過去最大を更新した。先に成立した35.9兆円に及ぶ21年度補正予算とあわせ、切れ目のない財政出動を続ける。新型コロナウイルス禍で傷ついた日本経済を下支えできるのか。「16カ月予算」に盛り込まれた主要政策のポイントを読み解く。

【脱炭素】EV補助倍増、最大80万円に

政府が日本経済底上げへの柱に位置づけるのは脱炭素への取り組みだ。菅義偉前政権から温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロ、30年度に13年度比で46%減らす目標は引き継いだ。官と民、家庭向け政策の総動員がなければ目標に届かないとの危機感はある。

米国に比べ金額は見劣りするが、日本の予算上は「重点配分」といえる。

家庭向けでは、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の購入補助を厚くした。

EVには最大80万円の補助を出し、これまでの金額の2倍にした。軽自動車のEVとPHVは20万円を50万円に、FCVは225万円を250万円に引き上げた。

補助の対象は11月26日以降に登録された車。外部の電化製品などに電気を供給できるという条件をクリアしていれば、上限額まで補助する。補正・当初予算双方で手当てし、仮にすべてをEV補助に充てると5万台近くが対象になる。

省エネ住宅の購入を支援する制度(予算額は21年度補正で500億円超)もつくる。新築の場合、省エネ性能に応じ60万円、80万円、100万円の3区分で補助。18歳未満の子どもを持つ世帯か夫婦いずれかが39歳以下の世帯が対象だ。

企業支援では、中小企業が省エネ機器を取り入れ二酸化炭素(CO2)排出量を減らせば、年1トンあたり最大7700円を補助する制度導入を盛り込んだ。

政府は35年までに乗用車の新車販売で電動車100%をめざしており、中堅・中小メーカーが電動車部品を製造できる体制への転換も促す。企業が太陽光発電設備を設置して自家用電源として使う取り組みにも補助を新設した。

より成長につなげるには、例えば再生エネを消費地に送る送電網の整備が不可欠。ただ増強に向けて、北海道から本州への海底送電線のルートを決めるための調査費50億円を21年度補正に計上するにとどめた。日本は整備費を電気料金で賄うためだが、再生エネ拡大の足かせにならないよう増強を急ぐ必要がある。

【デジタル】マイナカード普及に重点

成長力強化に向けたもう一つの柱はデジタル化への予算の重点配分だ。新型コロナウイルス禍で露呈したデジタル化の遅れをいち早く是正しなければ、成長の足かせになるとの危機意識が政府内にもある。

普及の遅れが指摘され続けてきた代表格といえばマイナンバーカードだろう。政府は2021年度補正予算に普及へのテコ入れ策を先んじて計上しており、「マイナポイント第2弾」向けの費用として1.8兆円を用意した。

具体的には、給付に差をつけて保有を促す仕組みにした。22年1月1日から事業を始める。まず、カードの新規取得者に最大5千円分のマイナポイントを付与する。健康保険証や給付金の受取口座をカードとひもづけた人には、それぞれ7500円分のポイントを上乗せする。新規取得者に最大2万円分のポイントを付与する。

22年度当初予算でも、普及加速への費用をつぎ足した。地方自治体の体制整備に向けて約1千億円を補強。一連の大盤振る舞いによって、政府は「22年度末までにほぼ全国民に広げる」ことを目指すというが、現状での交付枚数は人口の4割。保有の利点が理解されていない部分も多く、目標実現はなお見通せない。

21年9月に発足したデジタル庁にとっては初めての当初予算の配分となり、4000億円超を確保した。大半をデジタル庁と各府省庁の間のシステム整備に充てる計画だ。

このほか医療や介護、教育や防災といった分野のデジタル化やデータ連携を見据えた取り組みも新しく始める。いずれにせよ、デジタル庁が司令塔機能を果たせるよう役割を強める。

「デジタル田園都市国家構想」は政権の看板政策のひとつで、地方経済の下支えを狙う。一部具体化に向けて21年度補正で、データセンターや海底ケーブルなど地方向けインフラ整備事業に500億円を計上。基金を通じ中長期の運用を想定する。22年度当初の要求段階で数億円規模を求めていたが、前倒しで予算配分することになった。

【経済安保】半導体、国内安定生産目指す

経済安全保障政策への重点配分は岸田政権下でも鮮明だ。中核は2021年度補正予算に盛り込んだ半導体支援で、国内での安定した生産力確保に向け先端半導体の工場整備を支援する基金を新設。設備費用の最大2分の1を補助する。

政府が支援第1号として想定しているのは、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設する新工場だ。経済産業相が工場の整備計画を認定し、生産・需給逼迫時の増産対応などが支援の条件になる。

経済安保に直結する人工知能や量子分野といった先端技術の研究開発には21年度補正で、支援する基金のために2500億円を積んだ。22年度当初では重要資源を確保する狙いから、石油天然ガス田の探鉱や買収などへの出資金として388億円を準備した。半導体関連で、事業者向け融資の利子補給金として9000万円を計上した。

【中小支援】事業復活支援金、最大250万円

新型コロナウイルス禍で苦境に立つ中小企業のための支援の経費は、経済産業省によると21年度補正予算と22年度当初予算案で約4兆円。20年度の第3次補正と21年度当初をあわせた「15カ月予算」と比べると、1.7倍程度になった。

減収事業者向けの「事業復活支援金」は、21年度補正で2.8兆円を手当てしている。支援金として最大250万円を出し、11月から22年3月までの5カ月の減収を補う仕組み。20年度に実施した「持続化給付金」の給付上限は200万円だった。

22年度当初からはこのほか、大企業による買いたたきを監視するための体制強化に21億円を充てる。「下請けGメン」と呼ぶ調査員を2倍にする。研究開発を支援する補助金は100億円超を準備。民間ファンドが出資予定の研究開発で、補助上限を4500万円から1億円に引き上げる。

【地方創生】移住支援さらに厚く

新型コロナウイルス禍が長引き、その対策への費用が膨らんでいる現状は国も地方も同じだ。自治体向けの財政支援策の拡充は、今回の「16カ月予算」でも目立つ。

2022年度の地方交付税の総額は自治体に配る出口ベースで18.1兆円となり、04年度以降で最高額となった。デジタル化や脱炭素といった自治体の財政上の需要が増したことに加え、財源不足を補うために自治体が発行する臨時財政対策債の発行を減らす狙いが背景にある。

コロナ下の自治体財政への配慮から、国から巨額の交付金を出して補う流れも定着しつつある。

21年度補正予算には、都道府県に配る地方創生臨時交付金として6.8兆円計上。いちどに計上する臨時交付金としては過去最大の規模だった。

同交付金の内訳では、新型コロナ「第6波」に備えた飲食店への協力金向けに1.5兆円を手当てした。自治体で使い道を決められる配分の枠にも1.2兆円を回した。このほか「第5波」の補塡分に3.5兆円、コロナの無料検査の支援に3000億円と、国として自治体側の負担増に対する反発をできるだけ避けたい思いがにじむ。

地方に人材を呼び込む施策も盛り込んだ。

たとえば転職をせずに地方移住できる働き方を促す取り組みを後押しする交付金を新設し、21年度補正予算で200億円を充てた。コロナ禍でのテレワーク普及により住む場所を問わずに働きやすくなったため、地方への新たな人材の流れを促す狙いだ。

22年度当初予算では地方創生を推進するための交付金として1000億円を振り向け、自治体が自ら人口減などの地域課題をデジタル技術で解決する取り組みを後押しする。

地域の新たな事業の創出も目指す。政府は人口の東京一極集中が進むなか、交付金や担い手を地域に振り向けて人口流入の増加につなげる考えだ。

【防衛】海上監視・輸送能力を増強

防衛費は5兆4005億円と10年連続で増えた。2021年度補正予算とあわせると6兆1000億円を超す。中国や北朝鮮の軍事活動が活発になり、日本周辺の安全保障環境が厳しくなっている現状に対処する狙いだ。

陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の改良に393億円を投じる。射程を百数十キロメートルから1000キロ超に伸ばし、地上配備だけでなく艦艇や戦闘機からも発射できるようにする。離島侵攻を試みる敵の艦艇へ相手の攻撃圏外から発射できる能力の保有を急ぐ。

イージス艦に搭載し、敵のミサイル攻撃の防御に使う艦対空ミサイル「SM6」も202億円かけて取得する。

空の能力も拡充する。相手のレーダーから探知されにくいステルス性能を持つ最新鋭戦闘機「F35」は12機分の購入費として合計1278億円を積む。航空自衛隊の主力戦闘機「F15」に新型ミサイルや電子戦装備を搭載する改修に520億円を確保する。

離島防衛に欠かせない海上の監視・輸送能力の強化はスピードアップする。22年度予算として概算要求していたP1哨戒機とC2輸送機の取得は21年度補正予算に前倒しで計上。納期を3カ月から半年早める。

哨戒機は空から海上の艦船の動きを探知するのに使う。輸送機は自衛隊員や物資を前線に迅速に送り込むのに必要になる。いずれも南西諸島の防衛力向上を意識している。

防衛技術の研究開発費は2911億円を計上。21年度当初予算と比べ1.4倍に膨らむ。中国やロシアが新型兵器として導入をめざす極超音速ミサイルやドローンを打ち落とす新たな技術の研究を進める。

米英の企業の支援を得ながら国産での配備をめざす次期戦闘機の開発には858億円を投じる。エンジンや機体の設計が本格化する。次期戦闘機による対処を支援する無人戦闘機の開発コンセプトの検討に101億円を使う。

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