炭素税1万円でも「成長阻害せず」 環境省会議で試算

二酸化炭素(CO2)排出に価格を付けるカーボンプライシング(CP)を巡り、環境省が21日開いた有識者会議で排出1トンに約1万円の炭素税をかけても税収を省エネ投資に回せば経済成長を阻害しないとの試算が示された。強制的な措置で企業に排出削減を促す狙い。経済産業省は過度な負担は成長を阻みかねないと慎重な立場で、今後、政府内で調整を進める。

試算は日本政策投資銀行グループの価値総合研究所(東京・千代田)と国立環境研究所がそれぞれ示した。炭素税にあたる地球温暖化対策税を2022年から排出1トンあたり1000円、3000円、5000円、1万円ほど引き上げた場合の、30年時点の排出削減効果や実質国内総生産(GDP)などを見積もった。現在の税額は同289円。
税額が増えるほど削減につながるが、経済の押し下げ効果も大きい。試算では税収の使い道次第で経済への影響を緩和できた。

価値総合研究所の試算では、税額を1万円上乗せしても、税収の半分を企業の省エネ設備投資の補助に還元すれば、税額を据え置くよりも30年の実質GDPが大きくなった。国立環境研究所によると、単純に1万円増税すれば30年の実質GDPが0.9%縮むが、税収を企業や家庭の省エネ投資に使うと減少幅が0.1%に抑えられた。
環境省は炭素税のほか、企業に排出枠上限を設けて不足分を売買する排出量取引も含め、強制的に削減を求める制度をめざす。省エネが進めば中長期でエネルギー購入費用などが減るうえ、脱炭素技術の輸出などで経済成長につながるとみる。今回の試算もCPが「経済成長に資する」ことの論拠の一つとする。

実際、先行してCPに取り組む国・地域では排出量の減少と経済成長を両立する。05年に排出量取引を導入したEUは、1990年から2019年の間に排出量が2割減り、GDPは6割増えた。日本も10年から排出量取引を導入した東京都は09年から15年にかけてエネルギー消費量が10%以上減り、都内総生産は7%以上拡大した。
環境省とは別に、2月からCPの有識者会議を開く経産省は強制的な制度に慎重だ。確立した脱炭素技術がない鉄鋼業界などは、負担が増えるだけで排出削減につながらないと指摘する。企業の自主的な取り組みを後押しすることを重視し、削減量を企業間で取引できる自由参加の市場を活性化する制度を整える方針だ。
中小企業も新技術を導入する体力が乏しい。日本商工会議所は強制的なCPに反対する。
導入する場合、対象の業種や企業規模、減免や還付措置なども論点になる。企業や家庭は石油石炭税や揮発油税もすでに負担している。再生可能エネルギーの導入を促す固定価格買い取り制度(FIT)による負担もある。既存制度との整理も必要になる。
欧米では排出量の多い国からの輸入品に課税する国境炭素調整措置の導入に向けた議論が進む。日本企業の排出削減の取り組みが国際的に正当に評価される制度をつくらないと、海外展開の足かせになりかねない。国際的な議論の動向を踏まえることが欠かせない。
炭素税は石炭、石油など炭素を含む化石燃料の消費に課す税金。最終商品への価格転嫁が進みやすく企業から家庭まで幅広く排出削減努力を促す効果が期待できるが、低所得者の負担が重くなりやすい課題がある。
排出量取引は政府が企業などに排出上限を設定し対策を促す。排出枠が余った分は企業間で取引できる。確実に削減が見込めるが、排出枠の価格高騰で企業の負担が重くなるリスクがある。