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原発処理水放出へ一歩 規制委合格、地元理解なお課題

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東京電力の福島第1原子力発電所からの原発処理水の放出計画が18日、原子力規制委員会の安全審査に事実上合格した。東電と政府は2023年春ごろの海洋放出をめざす。安全性に問題ないことは確認したが、風評被害を懸念する漁業者らは反対姿勢を貫いている。敷地内のタンクが埋まる23年夏~秋ごろまでに放出に進めるかどうかは、綱渡りの状況が続く。

規制委は同日午前の定例会で、事実上の合格証となる「審査書案」を取りまとめた。規制委の更田豊志委員長は同日の記者会見で「安全面で多くの人の関心や懸念がある。とても丁寧な審査をした」と語った。今後は一般からの意見を募った上で7月にも正式に合格となる見通しで、来春の放出に向けて一歩前進した。

松野博一官房長官は18日の記者会見で「23年春をめどに処分を開始できるよう必要な準備を進めていきたい」と語った。「国内外の関係者の理解を得るよう取り組んでいきたい」と述べ、漁業者や近隣国・地域などへの説明に努める考えを示した。

更田氏は当初、21年度中に審査を終える見通しを示していた。東電が実施した放出に伴う環境への影響の評価について、国際原子力機関(IAEA)が求める方法でやり直す必要が生じ、2カ月ほど遅れた。東電は正式合格後、立地自治体の事前了承を得て本格的な工事を始める。

IAEAは2月に日本政府の要請で専門家を派遣し、処理水の安全性を検証している。4月末に公表した第1弾の報告書では、処理水の海洋放出に伴う人への影響は「非常に低い」と評価した。IAEAのグロッシ事務局長は18日、萩生田光一経済産業相と会談し「IAEAの評価により、世界中の人々が処理水は健康や環境に影響を与えないという確信を持つことができる」と伝えた。

処理水は原子炉建屋などを通って汚染した雨水などを敷地内の装置で浄化したものだ。放射性物質のトリチウムが残るが、大量の海水で希釈して、国際的な飲料水基準の1リットルあたり1万ベクレルを大幅に下回る同1500ベクレル未満にして放出する。コンピューターを用いた模擬実験では、放出後の水は速やかに海水と混ざってさらに薄まった。

政府と東電は安全性を強調するものの、漁業者のほか中国、韓国といった近隣国からは懸念の声が尽きない。放出に向けては、まずは風評被害を懸念する国内の漁業者らの理解が必要になる。

政府は15年、福島県漁業協同組合連合会に対して「関係者の理解なくしていかなる処分もしない」と約束した。萩生田経産相は今年4月に全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と面会し、「この約束を順守する」と改めて強調した。これに対し岸会長は「放出について絶対反対であるということはいささかも変わらない」と述べ、現時点では漁業者の理解は得られていない。

経産省は処理水放出に伴う風評影響に迅速に対応するための300億円の基金に加え、漁業者の後継者不足に対応する新たな人材育成支援策などの検討を始めた。後継者育成の支援メニューはすでに水産庁が全国で実施しているが「必要に応じて追加策を検討する」(担当者)。

消費者庁の2月の調査では「基準値以内であれば放射性物質のリスクを受け入れられる」と回答した人の割合は58.5%と、21年1月調査より上昇した。福島県産の食品への心配は払拭されてきている。しかし科学的に見て安全とはいえ、実際に原発から処理水を出すとなると、消費者への影響は読みにくいという面もある。

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