岸田首相「防衛力強化が外交の説得力に」 記者会見
岸田文雄首相は16日、首相官邸で記者会見した。閣議決定した国家安全保障戦略など防衛3文書について説明した。「防衛3文書とそれに基づく安全保障政策は戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と述べた。
「日米同盟を基軸とし、積極的な外交をさらに強化する」と訴えた。「日本に好ましい国際環境を実現するにはまず外交力だ。外交での説得力にもつながると考えて防衛力を整備している」と説いた。
「近年、国と国の対立、むき出しの国益の競争が顕著になった」と指摘し「グローバル化の中での分断が激しくなっている。分断が最も激しく表れたのがロシアによるウクライナ侵略という暴挙だ」と語った。
「借金が良いか自問自答した。安定的財源を確保すべき」
3文書は相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有や、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やす方針を盛り込んだ。
「27年度には抜本的に強化された防衛力と、それを補完する取り組みをあわせてGDPの2%の予算を確保する。そのための安定した財源を確保する」と話した。
財源に関して「今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきと考えた」と言及した。「戦闘機やミサイルの購入を借金でまかなうのが本当に良いのか、自問自答を重ねた。やはり安定的な財源を確保すべきと考えた」と、増税への理解を求めた。
「将来、国民に負担をいただくのが明らかであるのにもかかわらず、それを今年示さないのは説明責任を果たしたことにならない」とも説明した。
法人税増税「税率で1%程度、対象法人は全体の6%弱」
増税には法人、所得、たばこの3税を充てる方針を示した。法人税は本来の税率を変えず、納税額に特例分を足す「付加税」方式をとると説き「税率に換算すると1%程度だ」と強調した。中小企業に配慮し、対象は全法人の6%弱にとどまると触れた。法人税の増税は「余力のあるところにはできるだけ協力いただきたい」と呼びかけた。
同時に「来年から実施するわけではない。複数年にかけて段階的に実施し、開始時期などの詳細はさらに与党で議論を続け、来年決定する」と述べた。
復興特別所得税の活用「復興財源は確実に確保する」
東日本大震災の復興特別所得税については税率を1%下げて期間を延長する方針を示し「復興財源の総額は確実に確保する」と約束した。「息の長い支援を続けなければならない」と主張した。
GDP比2%「NATOも経済力に相応の国防費」
GDP比2%の水準を巡っては「数字ありきの議論をしてきたことはない。総合的な防衛体制を強化するための経費を積み上げた。積み上げの考え方が大前提だ」と訴えた。
一方で「北大西洋条約機構(NATO)をはじめ、各国は安保環境を維持するために経済力に相応の国防費を支出する姿勢だ。国際社会の平和と安定を守る上で、国際社会の協力が重要だ」とも語った。
憲法の範囲内で推進「非核三原則、専守防衛、平和国家は不変」
防衛戦略の転換を憲法の範囲内で進める意向も示した。「非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ」と明言した。
「一人一人が主体的に国を守る意識は大切」
「我々一人一人が主体的に国を守るという意識を持つことの大切さはウクライナの粘り強さがよく示している」と強調した。「未来の世代に責任を果たすために国民の皆様のご協力をお願いする」と協力を求めた。
決定プロセス「問題あったと思っていない」
政府・与党の決定過程に関しては「3文書、防衛力の抜本強化は1年以上にわたる丁寧なプロセスがあり、問題があったとは思っていない」と振り返った。「財源は考え方を示した上で、自民、公明両党の税制調査会に結論を出してもらった。それに基づいて閣議決定した」と説いた。
ガイドライン変更「何ら決まっていない」
日米ガイドラインの変更を巡っては「現時点で何ら決まっていることはない。日米間のあらゆるレベルで緊密な協議を進める」と述べるにとどめた。
自衛隊の能力「現状は十分でない」「現在の能力で守り抜けるのか」
首相は自衛隊の能力について「率直に言って現状は十分ではない」「防衛体制が質・量ともに十分なのかという点が議論の背景にあった」と紹介した。「脅威が現実となったときに、現在の自衛隊の能力でこの国を守り抜けるのか。極めて現実的なシミュレーションをした」と言及した。
反撃能力「不可欠な抑止力」、行使条件「安全保障の機微に触れる」
北朝鮮による相次ぐミサイル発射などを挙げ「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は不可欠となる能力だ」と力説した。「歴史の転換期を前にしても国家、国民を守り抜くとの首相としての使命を断固として果たしていく」と訴えた。
反撃能力の行使に関して「相手からのミサイル攻撃を受けた場合という定義付けか」との質問が挙がった。首相は「安全保障の機微に触れる」と回答しなかった。
「防衛費増加で武力攻撃の可能性低下させる」
政府は今後5年間の防衛費を現行計画のおよそ1.5倍の43兆円程度に増やす。首相は防衛力の強化で「武力攻撃そのものの可能性を低下させることができる」と明言した。
南西諸島を守る自衛隊の部隊を倍増し、輸送機や船舶を増強すると表明した。「有事の際の国民保護の観点から重要だ」と説明した。海上保安能力の向上などで「総合的な国力を活用し、日本を全方位でシームレスに守っていく」と唱えた。
中国「国際秩序強化の挑戦と認識」
中国の軍事動向について「国際秩序を強化する上での挑戦と認識している」と指摘した。日中が安定的で建設的な関係を構築することが「国際社会の平和と安定に不可欠だ」と話した。
防衛装備品移転「防衛産業の基盤の維持・強化に効果的」
防衛装備品の輸出促進も訴えた。「重要な政策ツールだ。防衛産業の基盤の維持・強化にも効果的だ。移転三原則、運用指針をはじめとする制度の見直しは与党と調整して結論を出さなければならない」と主張した。
防衛力強化の意義を「円滑な経済活動に直接資する」とも表現した。シーレーンの確保やサプライチェーン(供給網)の維持のほか、抑止力の強化で市場のかく乱リスクが減ると例示した。
「私たちの世代が責任を果たすことの大切さ訴えた」
自民党が防衛増税を巡る首相発言を修正したことについて、実際には「今を生きるわれわれが未来の世代に責任を果たすためにご協力をお願いしたい」と発言していたと主張した。
党は当初「今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」との発言を紹介していた。
首相秘書官が訂正を要請した経緯を巡っては「事務的なミスが原因だ」と語った。発言の趣旨については「私たちの世代が責任を果たしていくことの大切さを訴えた」と説明した。
経済政策に関して国内への民間投資を増やす策を問われると「22年度第2次補正予算で7兆円規模の戦略的な投資支援を盛り込んだ」と紹介した。経済安保やサプライチェーンの安定性などの面で「投資先としての日本の魅力は高まっている」との認識を示した。
「今議論しているのは、国民の命、暮らし、事業を守るために日本の防衛能力を抜本強化する、こうした話だ」と語った。「賃上げや設備投資は岸田政権の経済政策の最重要課題だ」と、経済界に理解を求めた。
【防衛3文書の要旨】