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共産党・志位氏は在任22年、さざ波立つ「党首の選び方」

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政党のトップをどのように選ぶべきか。共産党を舞台にしたある騒動の波紋が永田町に広がっている。他党にとってもまったくの無縁だと割り切れる話ではない。

共産党は6日、重大な規約違反があったとして元党職員の松竹伸幸氏を除名処分にした。松竹氏は1月に出版した著書で「党首公選制」の導入を訴えた。除名は党が定める最も重い処分にあたる。

「突然外から攻撃した」

志位和夫委員長によれば処分の理由は松竹氏の主張の中身ではない。

異論を持っているから排斥したのではなく「突然外から攻撃した」から。党のルールに基づき党内で意見を表明する努力をしなかったことが一連の根拠だという。松竹氏は処分を不服として再審査を求める意向を示す。

志位氏は2000年11月に静岡県熱海市で開いた共産党大会で、不破哲三氏の後任として書記局長から委員長に選出された。在任期間は22年を超え国政政党の中でトップにいる年数は最も長い。

共産党は間接的な仕組みを採用している。まず地方組織から代議員を選び、代議員が2〜3年に一度開かれる全国大会(党大会)に参加する。党大会で代議員の選挙によって200人ほどの中央委員会を選び、中央委員会が党首(幹部会委員長)を決める。

松竹氏はこうした方法と党の運営を絡めつつ「異論を可視化できるようになっていない」などと主張した。批判の矛先は志位氏の在任期間にむかい「国民の常識からかけ離れていると言わざるを得ない」と指摘した。

志位氏は「いまの指導部の選出方法が一番民主的で合理的」との立場を崩さない。「唯一の民主的な方法は直接選挙で、それ以外は非民主的だというのは根拠がない」とも強調する。

共産党は22年7月に創立から100年の節目を迎えた。党員は最も多かった1990年の半分のおよそ26万人。党費と同党の機関紙「しんぶん赤旗」を中心とした収入もピーク時の6割まで減少した。

今なお続く各党の試行錯誤

党員らの声をできる限り反映したルールをつくる――。党首の選び方を巡っては各党ともに試行錯誤を続けてきた歴史がある。

自民党は78年に初めて党員投票による予備選を導入した。地方票の反映のしくみや比重に関してはその後に何度も改めてきた。

自民党総裁選では地方票を多く獲得した人が総裁になるケースが多い。例外は2012年総裁選で、決選投票を国会議員票に限った。1回目の投票で地方票を多く集め1位となった石破茂氏は、国会議員票を固めた安倍晋三氏に決選投票で逆転負けした。

直近の21年総裁選における国会議員票と党員・党友票は1対1だった。決選投票は各都道府県連の47票を含むものの、国会議員票が全体の9割を占める方式になる。

決選投票に進めなかった3位以下の陣営の票をいかに取り込むか。この点が最終結果を左右するため派閥の力学に委ねる部分も大きくなる。

立憲民主党や国民民主党も票のバランスを調整している。数値はそれぞれで異なるが国会議員や地方議員、国政選挙の党公認候補者や党員の票をポイントにし、ドント式で配分するしくみをとる。

日本維新の会は手法がやや異なる。22年の初めての代表選で取り入れたのは「1人1票制」。国会議員と一般党員票に差をつけなかった。

代表選には年会費を2年以上継続して払う「一般党員」が2万人ほど参加した。特徴はもう一つある。決選投票はなし、つまり1回目の投票での最多得票者が代表になるという一発勝負にした。

維新は党公式の動画サイトで「内輪で決めるのではない。皆さんが納得いくよう代表を決めてもらう」と訴えかけた。大阪府知事だった橋下徹氏が立ち上げた地域政党「大阪維新の会」を源流に持つだけに、他党との違いを前面に出す戦略といえる。

公明党は国会議員や各都道府県代表ら代議員による選挙で党代表を決める。過去に複数の議員が立候補したことはなく、毎回無投票で決まってきた経緯がある。

適切な新陳代謝欠かせず(一橋大の中北浩爾教授)

政党トップの在任期間をどう考えるべきか。長ければ党の顔としての認知度は増す。安定的な政党運営にもプラスに働く。一方で時代の変化に合わせて新たな方針を打ち出すことが難しくなってしまう。

一般企業のカリスマ経営者であっても、在任期間が長くなると変化への対応力や人材活用が滞りかねない。

突然の引退はリスクとみなされる。着実に世代交代を進めることは経営者の重要な役割の一つだ。

政党の代表者を党員参加の自由な選挙で決めるしくみは、組織を活性化する観点から意義が大きい。

米欧諸国のデータをみても党員参加型の党首選が支配的になってきた。イデオロギーの衰退や利益誘導政治の後退なども背景に、党員を増やすには参加の機会を増やすことが必要になっているからだ。

党員が党首選に参加できない政党は次第に少数派となり、流れに逆らえば閉鎖的と受け止められる。共産党も党員参加のもと複数の候補者による党首選を実施しなければ組織の弱体化が一段と進むのではないか。

日本の主要政党では党員票だけでなく、国会議員票を組み合わせたハイブリッド型が主流になっている。議院内閣制の下、国会の議決で首相を決めることがその理由だ。

党員と国会議員の票をどう配分するかについては各党が自らの理念を踏まえて最適な解を探り続けるしかない。「徹底して党員の声を聞く」という政党があってもいい。

企業トップは毎年の株主総会で業績やこれからの戦略を巡って株主から突き上げられ、任せられないと判断されれば解任決議も出る。政党に置き換えれば、党員は株主にあたる。「党内民主主義」を軽視する政党に明るい未来があるとは思えない。

記者の目) 政治も「業績連動」


1996年衆院選で小選挙区制が導入され、自民党における選挙の主導権は派閥から総裁と執行部に移った。

この首相の下では勝てそうにない。党内で不満と疑念が限界まで膨らむと差し替えの動きに発展する。流れにあらがえず、総裁選の出馬断念に追い込まれた菅義偉前首相の姿は記憶に新しい。

党首の選び方を巡り一橋大の中北浩爾教授は「オープンな形での選挙を経ない手法は世界で少数派になる」と説く。懸念材料としてトップを選んだ理由や在任中の業績の評価が曖昧になりやすい点をあげる。

党首の「顔」が政党の浮沈を握る。政治の世界で業績は選挙結果と同義だ。少なくとも共産党は志位氏が就任した2000年と比べると、いまの衆参の議席数は減っている。(小林恵理香)
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