日韓首脳、関係正常化で一致 東アジア安保を再構築
シャトル外交再開、韓国向け輸出管理を緩和
岸田文雄首相は16日、首相官邸で韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談し、関係を正常化すると一致した。軍備拡張を進める中国の脅威を前に日韓が足並みをそろえたことで、米国と協力して東アジアの安全保障を再構築する態勢が整った。

日韓首脳は2011年以来、途絶えていた首脳間の相互訪問の枠組み「シャトル外交」を再開すると申し合わせた。首相は会談後の共同記者会見で「日韓関係の新たな章を開く。日韓関係の正常化にとって大きな一歩だ」と述べた。「適切な時期の訪韓を検討する」と明らかにした。
今回の合意は二国間の関係改善以上の意味がある。いまは中国が国防費の拡大を続け、台湾有事の懸念が広がる。中国の隣国である日韓が協力できないままなら東アジア全体が不安定化しかねない。
ロシアのウクライナ侵攻で米国は欧州とアジアの二正面での対処を迫られる。日米韓が外交安保から経済まで協力できる態勢が必要だった。
首脳会談は少人数会合と拡大会合をあわせて1時間25分ほどだった。記者会見で尹氏は「韓日関係を速やかに回復させて発展させる志を同じくした」と強調した。「普遍的価値を共有し、共通の利益を追求する最も近い隣国で協力すべきパートナーだ」と語った。
尹氏が強調したのは安保面の協力だ。2019年に韓国が一方的に破棄を通告し不安定な状況になった「日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を正常化させると明言した。
日米韓ではミサイルの探知・追尾、情報の即時共有の枠組みを強化する。外務・防衛当局間の実務者協議「日韓安全保障対話」の5年ぶりの開催も急ぐ。
16日朝に北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のミサイルに関しても、会談で協議した。対北朝鮮も含めて東アジア全体の秩序で協力を確認したことになる。
韓国大統領が日本を訪問して首脳会談をするのは国際会議にあわせたものを除けばおよそ12年ぶりとなった。首相夫妻主催の夕食会は異例の「2次会」まで開いた。
日韓が歩み寄ったのは元徴用工問題で韓国が日本企業の賠償を韓国の財団が肩代わりする解決策を示したためだ。
尹氏が会談で解決策を説明すると、首相は「評価する」と表明した。植民地支配への「痛切な反省と心からのおわび」を明記した1998年の日韓共同宣言を継承する立場を首相は明確にした。「歴代内閣の立場を全体的に引き継いでいる」と言明した。
尹氏は記者会見で韓国の財団が肩代わりする賠償金の返還を被告の日本企業に求める「求償権」について「もし行使すればすべての問題を元に戻すものだ」と話した。「行使を想定していない」と答えた。
政府は5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)へ尹氏を招待する案を検討する。

日韓はこれまでも対立と接近を繰り返してきた。歴史問題に加え、島根県・竹島(韓国名・独島)をめぐる領有権問題もある。最近では12年に当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島に上陸してシャトル外交が途絶えた。
尹政権が22年5月に発足してからは「未来志向の関係」の構築へ元徴用工問題の解決をめざしてきた。中国の軍備増強や台湾有事など、東アジアの安保のリスクに対応するため米国が日韓関係の修復を求めてきた経緯もある。
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