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「デジタル臨調」行革手探り 強力看板、人材が決め手

政界Zoom

行政、規制、デジタル化の一体的な改革をめざす政府の諮問機関「デジタル臨時行政調査会(臨調)」が岸田文雄政権のもとで本格的に動き始めた。歴史を振り返ると「臨調」は行政改革の代名詞となってきた。デジタル臨調は行政に風穴をあけることができるだろうか。

「国・地方の制度やデジタル基盤など、経済社会の仕組みをデジタル時代に合ったものにつくり直していく必要がある」。首相は2021年11月に首相官邸で開いたデジタル臨調の初会合で強調した。

従来型の紙によるやりとりをデジタルに置き換えるなどの改善を進める。政府は4万件以上の法令やガイドラインについて22年春までに見直し計画をとりまとめる。その後3年程度を集中期間と位置づけて改正に取り組む方針だ。

現在は人の手で取り組む業務の合理化も目指す。一例をあげると、堤防や貯水池の点検は担当者が現地で目視するよう定めている。ドローンに搭載したカメラなどで代用できるようにする。

デジタル臨調のメンバーには十倉雅和経団連会長のほかKADOKAWA社長の夏野剛氏やフューチャー社長の金丸恭文氏といった経営者や研究者らが名を連ねる。専門家の立場から知恵を出す。

民間の有識者を交え行政改革を議論する臨調は昭和期に2回設けた。過去2回は臨時行政調査会設置法に基づく政府の組織だった。1回目の「第1臨調」は池田勇人元首相が立ちあげた。

池田氏は現在は岸田首相が率いる自民党の派閥「宏池会」を創設した。首相は21年の自民党総裁選で池田氏の「所得倍増計画」にならって「令和版所得倍増」もうたった。宏池会の伝統を重視する首相にとって臨調の再現は政治的な意味をもつ。

第1臨調の会長は三井銀行(当時)の会長だった佐藤喜一郎氏が務めた。内閣機能の強化や行政機関の改廃などについて答申で提言した。

行政手続法の制定に向けた提言はのちに実現した。所得倍増や東京五輪の開催といった池田内閣の実績に比べて、第1臨調の成果は目立ったとはいいがたい。

2回目の臨調は鈴木善幸政権が設置した。世間の注目をより集めたのはこの「第2臨調」のほうだろう。設置の背景には1973年の石油ショック以来の不況があった。鈴木氏も宏池会だった。

当時は景気対策として大規模な財政出動が続いた。国の財政が悪化し、財政再建に向け行革による「増税なき財政再建」が課題となった。

元経団連会長の土光敏夫氏が会長に就いた。土光氏は石川島播磨重工業(現IHI)や東京芝浦電気(現東芝)の社長を務めた。

行革の先兵として土光氏を国民に印象づけたのは質素な生活だった。メザシの食事をとる土光氏の姿はテレビで広く紹介された。物価高に苦しむ国民の目に「メザシの土光さん」は好意的に映った。

世論を味方にした第2臨調は答申の多くを実現させた。大きな業績にあげられるのは国鉄・専売公社・電電公社の「三公社」の民営化だ。

とくに国鉄は人件費や赤字路線の増大で経営難が続き健全化が急務となっていた。第2臨調は国鉄の分割民営化を答申した。

鈴木氏の後を継いだ首相は鈴木内閣で行政管理庁長官を務めた中曽根康弘氏だった。中曽根内閣は国鉄の経営陣や労働組合などとの対立や妥協をへて民営化を実現させた。

第2臨調の理念はのちに橋本龍太郎内閣に受け継がれた。橋本首相は中央省庁の再編をめざす「行政改革プログラム」を発表する。2001年に森喜朗内閣のもとで再編が実現した。

その後は小泉純一郎政権が「経済財政諮問会議」、第2次安倍晋三政権が「行政改革推進会議」や「規制改革推進会議」を活用した。

第1臨調が設立された1961年を起点とすると、81年の第2臨調発足、2001年の省庁再編と20年ごとに行革の節目がある。岸田首相は21年の総裁選でデジタル臨調の構想を初めて掲げた。ほぼ20年周期といえる「行革の年」の展開が注目される。

第2臨調で事務にたずさわった拓殖大の田中一昭名誉教授の話 行政は15年に一度は総ざらいして改革しないといけない。小さな改革は毎年各省がやっているが、政府全体としての行革が大事だ。

政治家は自分が責任を取りたくないという思いが強い。本当に日本にとってプラスになる改革を訴える人がほとんどいない。第2臨調でいちばん改革をやる気がなかったのは政治家だった。

土光敏夫氏は「おれについてこい」と言って、強力なリーダーシップを発揮した。伊藤忠商事にいた瀬島龍三氏もいろいろな動きをして支えていた。瀬島氏のような戦略家も含め役者をそろえなければいけない。そして行革には何よりも国民に訴えるものがなければならない。

民間「令和臨調」も発足 90年代に政治改革提唱

政府が設置する本来の臨調とは別に、経営者や学識者、労働組合の幹部らが日本の課題を議論する「民間臨調」もある。日本生産性本部は2月に「令和国民会議(令和臨調)」の発足を発表した。

およそ80人がすでに参加を表明する。統治構造、財政・社会保障、国土構想の3テーマを設定し政府や与野党に提言する。共同代表の茂木友三郎・キッコーマン名誉会長は「平成時代から先送りされてきた構造改革課題に取り組む」と話す。

過去に民間臨調は政治へ一定の影響力を持った。1992年にできた「民間政治臨調」は衆院の中選挙区制にかわる選挙制度の改革を目指した。現在の小選挙区比例代表並立制の導入につながった。

99年に誕生した「21世紀臨調」は政策決定での首相のリーダーシップの強化を求めた。小泉純一郎内閣に代表される「官邸主導」政治の理論的支柱ともいえる。

記者の目 硬直打破へ「魂」は入るか

硬直した行政のしくみを改革するには政治家や官僚だけでなく民間の視点も取り入れた議論が欠かせない。時代のニーズに対応する幅広い業界から知見をえて行政に刺激を与えるのが理想だろう。デジタル臨調はIT(情報技術)に精通する人物を委員に据える。

およそ40年ぶりに誕生した岸田政権のデジタル臨調は土光敏夫氏の存在感が大きかった第2臨調ほど注目されていないようにみえる。民間人が参加する政府の会議はもはや珍しくない。

田中氏が指摘するように「役者」の人選が肝要で、政府への意見がお決まりのパターンだと提言も生かせないのではないだろうか。「仏つくって魂入れず」ではないが、せっかくの新組織は予定調和ぬきで日本の将来を真剣に考えてほしい。(加藤敦志)

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