原発処理水の海洋放出決定 2年後めど、100倍以上に希釈
政府は13日、東京電力福島第1原子力発電所の敷地内にたまる処理水を海洋放出の形で処分すると決めた。2年後をめどに実施する。大量のタンクが廃炉作業の妨げになりかねない状況だった。海水のモニタリングや農水産業の風評被害対策を強化する。
同日朝に首相官邸で開いた廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議で決めた。菅義偉首相は「廃炉を進めるにあたり避けては通れない課題だ。処理水の安全性を確実に確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を行う」と述べた。
東京電力ホールディングスが原子力規制委員会に計画や放出設備の認可を得たうえで処理水を放出する。閣僚会議で決めた基本方針に「東電には2年程度後の開始を目途に準備を進めることを求める」と記した。
出席した東電の小早川智明社長は終了後、海洋放出に向けた対応方針を速やかにつくる考えを示し、「しっかりと理解いただける方針を作成したい」と話した。

福島第1原発は2011年3月の東日本大震災の津波で炉心溶融事故を起こし、高濃度の放射性物質に汚染された水が発生している。東電が専用装置で主な放射性物質を取り除いてタンクにためる。処理水は装置で除去できない放射性物質のトリチウム(三重水素)を含む。
トリチウムを含む水の海洋放出は国内外の原発でも実施している。基本方針によると、放出前に処理水を海水で100倍以上に希釈し、国の基準値の40分の1程度、世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を薄める。1年間に放出するトリチウムの量が事故前の福島第1原発で設定していた目安を下回るようにする。

政府と東電は漁場や海水浴場などでトリチウムのモニタリングを強化する。海水サンプルの採取や検査に農林水産業者や地元自治体の関係者が加わる。海洋環境の専門家らでつくる会議も立ち上げ、モニタリングの確認や助言をしてもらう。
国際原子力機関(IAEA)は海洋放出について「科学的に妥当で環境影響はない」との見解を示している。ただ、消費者が放出を受けて周辺の農林水産物を避けるといった風評被害が生じる可能性もある。政府と東電は、福島県と近隣県の水産業などが国内外の主要消費地で販路を広げられるように支援する。
風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償を迅速かつ適切に実施することも基本方針に盛った。政府は風評被害対策などのための関係閣僚会議を新たに設け、週内にも初会合を開く。海洋放出後の水産業などの影響を確認し、必要な対策を検討する。放出に反発する中国や韓国に理解を求める取り組みも必要になる。
福島第1原発の敷地内のタンクは1000基を超え、廃炉作業に支障を来す懸念があった。事故から10年以上たって海洋放出が決まり、廃炉の本格化に向けた一歩となる。
全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は13日、「決定は極めて遺憾で到底容認できるものではない。全国の漁業者の思いを踏みにじる行為だ」との声明を出した。不安払拭のため、漁業者らへの説明や風評被害対策の明確化、安全性の担保などを求めた。
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