総裁選3候補の経済政策は? アベノミクスとの距離
皇位継承も論点

17日告示―29日投開票の自民党総裁選は、河野太郎規制改革相の出馬表明を受け、岸田文雄、高市早苗両氏を含む3人が軸になる構図になった。経済政策では安倍晋三前首相の経済政策「アベノミクス」からの距離で3氏の違いが浮き彫りになった。
河野氏は出馬を表明した10日の記者会見で、経済政策について「企業から個人へ。個人を重視する経済を考えていきたい」と訴えた。具体例として「労働分配率を一定水準以上にした企業に法人税の特例措置を設ける」と述べた。
「アベノミクス」に関して「企業部門は非常に利益を上げることができた。残念ながら賃金まで波及してこなかった」とも指摘した。
政府と日銀が共有する2%の物価目標をめぐり「インフレ率は経済成長の結果から来るものだ。達成できるかというとかなり厳しいものがあるのではないか」と話した。
金融政策に関しては「日銀も市場と対話することが大事だ」と提起すると同時に「日銀にある程度お任せしないといけない」と言及した。

高市氏「財政再建目標を凍結」
河野氏と対照的なのが高市氏だ。「サナエノミクス」「3本の矢」などの言葉を使い「アベノミクス」の継承を説く。
高市氏は2%の物価目標を達成するまで基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を凍結し、大規模な金融緩和と財政出動を実施すると話す。リフレ派の主張に近い。

岸田氏「中間層への配分重点」
岸田氏もアベノミクスに批判的にうつる。「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」と唱える。「新自由主義」は野党が小泉・安倍政権を批判する際に使ってきた用語だ。
市場の競争を重視した結果、格差が拡大したという問題意識が背景にある。岸田氏は「格差是正」「中間層への配分」も提唱する。
新型コロナウイルス禍で海外では再分配政策が重視され「大きな政府」への志向がある。岸田氏は「数十兆円規模」の大規模な財政出動も打ち出した。衆院選を控えて野党支持層が関心を持つ政策ともいえる。
河野氏も「経済政策の原資は国債にならざるを得ない」と財政出動を否定しない。とはいえ「規模感はもう少し研究したい」と述べる。現時点では岸田、高市両氏のように財政出動を看板にしていない。
河野氏の柱は成長戦略になる。「22兆円のGDPギャップを埋めるには未来につながる投資を」と主張し、デジタルとグリーンを「イノベーションの核」に据えた。
河野氏の出馬で注目されたのは「脱原発」だ。10日に公表した政策パンフレットで「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と記した。「脱原発」の表現はなかった。
記者会見では「原発の新増設は現時点で現実的ではない」と語った一方で「安全が確認された原発を当面は再稼働していく」と強調した。
河野氏は2012年には超党派の議員連盟「原発ゼロの会」の発起人となった。経済官庁では「河野氏が首相になればエネルギー基本計画を見直し、脱原発を推進するのでは」との観測があった。

自民党内では4月に原発の新増設や建て替えを推進する議連ができ、安倍氏が顧問に就いた。岸田、高市両氏は再稼働を容認し、争点化する可能性があった。
河野氏周辺は「原発やエネルギー政策に対する党内の警戒を解かなければ、幅広い支持は得られない」と狙いを話す。
新型コロナウイルス対策も論点になる。河野氏は菅義偉政権のワクチン担当閣僚だ。接種の推進は成果といえるものの、菅政権での新型コロナ対策について他候補から議論を仕掛けられる可能性がある。
高市氏は出馬を表明した8日の記者会見で、ロックダウン(都市封鎖)を可能とする法整備を早急に検討すると明言した。海外が導入する強い人流抑制策には個人の自由にもかかわるため、賛否両論がある。
河野氏も冊子では掲載していないものの10日夕のフジテレビ番組で「議論はしていく必要がある」と述べた。岸田氏は「日本型のより厳しい人流抑制」の必要性を訴え、海外のようなロックダウンには慎重だ。
安全保障・外交分野では特徴ある主張は乏しい。日米同盟を基軸とする大枠は3氏とも同じだ。安倍氏の後押しを得た高市氏が敵基地を無力化する攻撃を認める法整備を唱えている。安倍政権の最終盤で一時、実現を模索していた。
3氏がそれぞれ掲げる政策もある。岸田氏は党改革として、自民党役員の任期を「1期1年、連続3期まで」に制限すると打ち出した。
行政改革では高市氏が環境やエネルギーの政策を束ねる環境エネルギー省や、情報通信政策を推進する情報通信省の創設を提案する。
総裁選のもう一つの論点に浮上しているのは皇位の安定継承の議論だ。自民党支持層に多い保守層の支持を得るために重要とみられるためだ。
河野氏は10日の記者会見で「日本の一番の礎となっているものは長い伝統と歴史、文化に裏付けられた皇室と日本語だ」と力説した。
菅政権で続いた政府の有識者会議の議論に言及し「非常に堅実な議論をしている。多くの方がなるほどと思えるとりまとめを期待する」と語った。これまでの議論の方向性を尊重する姿勢だ。
河野氏は20年に「男系が続くなら男系がよい」と述べた上で「女性を皇室に残し、男の子がいなくなったときには女性の皇室のお子さまを天皇にするのが一つある」と発言した。保守層から女系天皇の容認論と受け止める声があった。
自民党内の保守層は男系男子の現制度の維持を求める声が強い。安倍氏ら保守派の支援を受ける高市氏は「万世一系の皇統が正統性の源だ」と話し、男系男子の継続を訴えている。
岸田氏も9日、女系天皇に関して「反対だ。今そういうことを言うべきではない」と表明している。
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菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選には河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子の4氏が立候補。9月29日に投開票され、岸田氏と河野氏の決選投票の結果、岸田氏が新総裁に決まりました。岸田氏は10月4日召集の臨時国会での首相指名選挙を経て第100代首相に就任しました。
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