IPCC報告書要旨 温暖化は人間の影響、排出ゼロ必要
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第1作業部会第6次報告書」の要旨は次の通り。
【A.気候の現状】
▽人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏、生物圏で広範囲かつ急速な変化が現れている。産業革命後の地球全体の気温の上昇幅は2011~20年の平均で1.09度で、陸地が1.59度で海域の0.88度より高い。上昇幅の推定は前回の報告書よりも予測手法の改良や新たな北極圏のデータなどで精度が向上した。平均海面水位は直近120年で0.2メートル上がった。ペースは1971年までの年1.3ミリの約3倍になった。
▽大気、海洋、陸地面の最近の変化の規模と現在の状態は何世紀も何千年もの間、前例がない。2019年の二酸化炭素の大気中濃度は少なくとも過去200万年のどの地点よりも高い。1970年以降の世界平均気温は、少なくとも過去2000 年間のどの50年の期間よりも速く上昇した。世界の氷河のほとんどが同時に後退しており、少なくとも過去2000年間に前例がない。
▽人間が引き起こした気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象や気候の極端な現象に既に影響を及ぼしている。人間が原因となって熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象が起きている証拠が強化された。1950年代以降、ほとんどの陸域で熱波などの極端な高温や大雨が増え、より強度が大きくなった。土地の蒸発散量が増加し一部の地域で農業および生態学的干ばつが増える。
【B.将来ありうる気候】
▽世界の平均気温は5つの排出シナリオで今世紀半ばまでは上昇を続ける。今後数十年の間に二酸化炭素やその他の温暖化ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は1.5℃を超える。産業革命前と比べて今世紀末ごろの世界の平均気温は温暖化ガス排出が非常に低いシナリオで1~1.8度、非常に高いシナリオで3.3~5.7度高くなる。非常に低いシナリオでも2021~40年の間に1.5度に到達する可能性が50%を超える。
▽地球温暖化の進行で極端な高温、海洋熱波、大雨、農業に被害を及ぼす干ばつの頻度と強度が増加する。強い熱帯低気圧の割合も増す。北極域の海氷や積雪、永久凍土は減少する。
▽温暖化ガスの排出による海洋や氷床、世界の海面水位の変化は、数百年から数千年の間、元に戻らない。陸地の氷河は数十年から数世紀にわたって融解を続ける。21世紀にわたってグリーンランドの氷床の消失が続くことはほぼ確実で、南極氷床についても可能性が高い。
▽21世紀にわたって世界平均海面水位がほぼ確実に上昇し続ける。排出が非常に低いシナリオで2100年までに海面が今より0.28~0.55メートル上がる可能性が高い。排出が非常に高いシナリオで南極氷床が崩壊し、海面水位が2100年までに2メートル、2150年までに5メートルに近づく可能性も排除できない。
【C.リスク評価と地域適応のための気候情報】
▽太陽や火山の活動変化などで10年単位の気温の変動が生じるが、100年単位の地球温暖化にはほとんど影響しない。地域規模で起こりうる変化に対して計画を立てる際には、10年単位の変化も考慮することが重要である。
▽地球温暖化に伴って熱波と干ばつなど複数の場所で同時に発生する確率が高まると予想される。1.5℃の地球温暖化と比べて2℃の場合により顕著になる。南極氷床の崩壊や急激な海洋循環の変化など、起こる可能性が低い結果も排除することはできず、リスク評価の一部である。
【D.将来の気候変動の抑制】
▽地球温暖化を抑えるには二酸化炭素の累積排出量を制限し、少なくとも二酸化炭素のゼロ排出を達成し、他の温暖化ガスも大幅に削減する必要がある。1850~2019年の二酸化炭素排出量は累計2390ギガトンに上る。気温上昇を1.5度に抑えるために残された二酸化炭素の排出量は400ギガトンの可能性が高い。
▽温暖化ガスの一種のメタンを迅速に排出削減すればエーロゾルによる汚染が減って温暖化効果を抑制し、大気汚染も改善する。温暖化ガス排出量が少ないシナリオは、温暖化ガス排出量が多いシナリオと比べて、数年以内に大気中の温暖化ガス濃度や大気汚染が少なくなる。温暖化ガス排出削減による平均気温の変化は20年以内に現れ始める。