企業融資の担保に在庫や設備、不動産と同等 法制審試案
不動産・個人保証への偏重脱却へ
法相の諮問機関である法制審議会は6日、企業などが融資を受ける際に設定する担保に関する中間試案をまとめた。在庫や生産設備、売掛金などを担保として法律に定める方針を示した。不動産や経営者の個人保証に偏重する融資を改め中小企業の成長機会を広げる。

在庫などの「動産」や債権は企業融資に使える担保として民法の位置付けがない。法制審の担保法制部会は不動産などと同等の扱いにする方向で2021年4月から議論を続けてきた。
政府は試案をパブリックコメント(意見募集)にかけたうえで民法改正や新法制定を検討する。具体的な法案提出の時期は固まっていない。
試案は生産ラインに組み込んだ機械などを担保に設定した場合、融資を受けた後も企業が使い続けられることを明確にした。現行制度では動産に質権がはたらくため、金融機関が機械を占有し企業は使用できなくなる可能性がある。
商品や部品といった在庫は「集合動産」とみなして担保にできると提示した。在庫の種類や量、保管場所などがあらかじめ定まっていることを条件に挙げた。通常の事業の範囲内であれば出荷に伴う商品の入れ替えを認めた。
不動産と同様に複数の金融機関が別々の融資で同じ担保を設定するのも可能だと明文化した。債務不履行が同時に発生した際に担保を処分する場合、動産の所有権が特定の金融機関に移ったことを示す法務局への登記を最優先にすると明示した。
日銀によると20年度の貸出金の担保は個人保証が32%、不動産などが16%を占める。無担保が48%あり、動産や債権などは3%程度にとどまる。
中小企業やスタートアップには不動産が少ない会社がある。金融機関による現在の融資慣行では資金調達の機会が限られ、事業拡大の妨げになっているとの指摘がある。
政府が22年6月に決めた新しい資本主義の実行計画は「金融機関は不動産担保などによらず、事業価値や将来性といった事業そのものを評価し融資することが求められる」と掲げた。
動産担保融資(ABL)は15年度をピークに減少傾向が続く。帝国データバンクによると20年度の実行件数は7788件と、15年度からおよそ4割減った。
動産担保を法律で明確化しても、こうした流れが反転するかは不透明な部分がある。在庫などの価値を審査するには専門的な知見が必要で、人材が乏しい地方銀行や信用金庫は及び腰になりがちだ。
「審査は外部に委託するしかなく、低金利下で収益性の低い融資を増やすハードルは高い」(地銀幹部)との声がある。