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IPCC報告書要旨「CCSで1兆トン貯留可能」、障壁は多く 

A 序と枠組み

報告書は京都議定書の成果、パリ協定の採択を含む国連気候変動枠組み条約の進展、持続可能な開発目標(SDGs)を含む国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」などの役割を反映した。

気候変動の緩和策の行為者と手法の多様化、世界的な取り組みでは都市や企業、先住民、地域社会、市民 、官民団体など、非国家的・準国家的な行為者の役割が増大している。

報告書には気候政策の世界的な広がり、低排出技術のコスト低下、さまざまな種類とレベルの緩和努力、一部の国の温暖化ガスの排出量の持続的削減、新型コロナウイルス感染症の影響と教訓などについて記されている。

サービスに対する需要や緩和の社会的側面、イノベーション、技術開発などの章を初めて盛りこんだ。複数の分析の枠組みから、緩和行動の推進、障壁、選択肢となるものを評価した。

B 最近の開発と現在のトレンド

(1)人為的に排出された温暖化ガスの総量は2010年から19年の間も増加を続けた。10~19年の温暖化ガスの平均排出量は過去最高の水準だったが、19年までの10年間の増加率は00~09年よりも鈍化した。

(2)温室効果ガスの排出量は10年以降、すべての主要な部門で増加しており、特に都市に起因する排出の割合が拡大している。化石燃料と工業プロセスによる二酸化炭素(CO2)の排出量は減少したが、他部門における総排出量の増加分はその削減量を上回っている。

(3)世界の温室効果ガス排出量に対する貢献は地域によって大きく異なる。1人あたり温室効果ガス排出量は、所得水準によってもばらつきがある。排出量の多い上位10%の家庭が占める総排出量の割合は不均衡に大きい。世界では少なくとも18カ国が温室効果ガスの削減を続けている。

(4)10年以降、排出量が少ない技術の導入コストは継続して下がっている。イノベーションを個別に支える政策と、包括的な政策が低排出技術の普及に貢献した。一方で、途上国では低排出を可能にするイノベーションが遅れている。デジタル化は排出削減に効果的な半面、適切な管理がなければ悪影響となる可能性がある。

10年から19年にかけて太陽光発電(85%)、風力発電(55%)、リチウムイオン電池(85%)の単価が持続的に低下し、地域によって大きく異なるが、太陽光発電で10倍以上、電気自動車(EV)で100倍以上など、その普及が大きく進んだ。コストを削減し、導入を促進する政策手段には公的研究開発や実証実験、パイロットプロジェクトへの資金提供、規模拡大のための導入補助金などの需要喚起の手段が含まれる。

途上国では、資金、技術開発・移転、能力などの実現条件が弱いことが一因である。多くの国では、低排出ガス技術の普及の結果として価値の低い雇用や外国のノウハウ、供給者への依存など、いくつかの悪影響が観察されている。

(5)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書以降、排出削減・緩和に対処するための政策や法律は拡充され、排出削減や温室効果ガス排出量の少ない技術およびインフラ投資の増加に貢献した。一方で、排出削減に向けた政策の適用範囲は部門の間で不均衡だ。パリ協定の目標に向けてグリーンなインフラへの投資がより多くの地域・部門でさらに求められている。

20年までに、世界の排出量の20%以上が炭素税または排出量取引制度でカバーされたが、カバー率と価格は削減を達成するには不十分であった。農業からの排出量や環境負荷の低減については、依然として政策の適用範囲が限定的である。

(6)第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)以前に提出された各国の排出削減目標(NDC)は、21世紀中に世界の気温を1.5度上昇させる可能性が高いと考えられる。温暖化を2度未満に抑えるには、30年以降さらなる緩和努力が必要である。

(7)現存または計画中の化石燃料インフラで追加的な削減対策を行わない場合、1.5度超の温暖化につながるCO2が排出される。この場合の排出量は、2度の温暖化につながる排出量とほぼ同等である。

C 地球温暖化抑制のためのシステム変革

(1)オーバーシュートをしない場合や、限られたオーバーシュートを伴って1.5度に抑えるか、温暖化を2度に抑えて即時に行動をとる場合には、世界の温暖化ガス排出量は20年から25年以前にピークに達すると予測される。いずれの場合にも30~50年のあいだに、急速かつ大幅に排出が削減される。20年末までに実施される政策以上の強化がない場合は、排出量は25年以降も増え続け、2100年までに中央値で3.2度の地球温暖化をもたらす。

(2)温暖化を1.5 度に抑える場合には、世界全体としてCO2の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を50年代前半に達成する。温暖化を2 度に抑える可能性が高いモデルでは、カーボンニュートラルを70年代前半に達する。

30年と40年までに排出量の大幅な削減、特にメタン排出量の削減を行うことは、ピーク温度を引き下げるとともに温暖化をオーバーシュートする可能性を低下させる。排出量が世界全体で正味ゼロに達し、それを維持することは温暖化の漸進的な低下につながる。

(3)温暖化を1.5度あるいは2度に抑えるには全ての部門で急速かつ大幅に排出量を削減する必要がある。達成にはCO2回収・貯留(CCS)なしの化石燃料から、再生可能あるいはCCS付きの化石燃料のような低炭素・ゼロ炭素エネルギー源への移行と効率の改善が必要になる。残留する温暖化ガス排出を相殺するCO2除去法の導入が含まれる。

(4)エネルギー部門全体を通して排出量を削減するには、化石燃料の使用の大幅削減、低排出エネルギー源の導入、代替エネルギーへの転換、省エネルギーなどの大規模な転換を必要とする。排出削減の講じられていない化石燃料インフラの継続使用では高排出量が続く。

一部の国や地域では、既に自然エネルギーによる電力システムが主流となっている。エネルギーシステム全体を再生可能エネで供給することはより困難なことだ。自然エネルギーを大量に利用するためには、システムの統合、セクターの結合、エネルギー貯蔵、スマートグリッド、需要管理、持続可能なバイオ燃料、水素などの幅広い選択肢のポートフォリオが最終的に必要とされるだろう。

地球温暖化を2度以下に抑えるには、相当量の化石燃料が未燃となり、かなりの化石燃料インフラが足止めされる可能性がある。CCSは、その利用可能性に応じて、化石燃料をより長く使用することを可能にし、座礁した資産を減らすことができる。

未燃焼の化石燃料と、化石燃料インフラの世界的な割引価値を合計すると、地球温暖化を約2度に抑えるため15年から50年にかけて1兆~4兆円程度と予測されており、地球温暖化を約1.5度に抑える場合はそれ以上となる。

その中で、石炭資産は30年以前に座礁するリスクがあり、石油・ガス資産は今世紀半ばに向けて座礁のリスクが高まると予測される。低排出ガスエネルギー部門への移行は、化石燃料の国際取引を減少させると予測される。

世界のエネルギー供給からのメタン排出は、温暖化ガス全体排出の6%を占めた。これらの化石燃料からのメタン排出量の約50~80%は、現在利用可能な技術により1トンあたり50ドル 以下で削減可能だ。

CCSは地中貯留が可能であれば、大規模な化石燃料由来のエネルギーや産業からの排出を削減するための選択肢の一つである。CO2が大気から直接回収される場合(DACCS)、バイオマスから回収される場合(BECCS)、CCSはこれらの手法の貯蔵要素となる。石油・ガス分野とは対照的に、電力分野、セメントや化学製品の製造分野では、CCSは成熟しておらず、重要な緩和策となっている。

技術的なCO2地中貯留容量は1兆トン台と推定されており、これは地球温暖化を1.5度に抑えるために2100年までに必要なCO2貯留量を上回っているが、地中貯留が可能な場所が制限要因になり得る。地中貯留場所が適切に選定・管理されれば、CO2を大気から永久に隔離することができると推定されている。CCSの実施は技術的、経済的、制度的、生態環境的、社会文化的な障壁に直面している。現在、CCSの世界的な普及率は、地球温暖化を1.5度または2度に抑えるモデルをはるかに下回っている。政策手段、より大きな公的支援、技術革新のような実現条件は、これらの障壁を低くすることができる。

(5)産業部門由来のCO2排出を実質ゼロにすることは困難だが可能だ。実質ゼロへの推進は、ゼロ・低排出の電力や水素、燃料などの導入によって可能となる。

(6)都市はインフラと都市形態の体系的な移行によって資源効率を高め、排出量を大幅に削減する機会を生み出す可能性がある。

急成長している新興の都市の野心的な緩和努力には①エネルギーと物質の消費量の削減または消費形態の変更②電化③都市環境における炭素吸収と貯留の強化――を含む。都市は排出量の実質ゼロを達成しうるが、それは、サプライチェーン全体を通じての排出量が削減される場合に限られ、そうなれば他部門にわたり有益な連鎖的効果をもたらす。温暖化ガスのネットゼロ目標など、気候に関する目標を設定する都市が増えている。

(7)世界全体のシナリオでは、省エネ対策や再生エネ対策を組み合わせた政策パッケージが効果的に実施されたうえ、脱炭素化への障壁が取り除かれた場合、改修された既存の建築物と新設の建物物は、50年に排出量の実質ゼロに近づくと予測される。

野心的ではない政策は、何十年にもわたって建物の炭素の「固定化」を起こすリスクを高める。一方で適切に設計され、効果的に実施される緩和策は、新築の建物と改修された既存の建築物の両方において、将来の気候に建物を適応させながら、すべての地域において持続可能な開発目標達成に貢献する大きな可能性を持つ。

(8)温暖化ガス排出を低減させる技術は、先進国の輸送部門の排出量を削減し、途上国における排出量増加を抑制しうる。需要に焦点を当てた介入策はすべての輸送サービスに対する需要を削減し、よりエネルギー効率の高い輸送方式への移行を支援しうる。

低排出の電力を動力源とするEVは陸上輸送で、生産から廃棄まで(ライフサイクルベース)で最大の脱炭素化ポテンシャルを提供しうる。

持続可能なバイオ燃料は、陸上輸送において、短期・中期的にさらなる緩和効果をもたらしうる。持続可能なバイオ燃料、低排出の水素などは海上・航空輸送のCO2排出を減らしうるが、生産プロセスの改善とコスト削減を必要とする。

運輸部門における多くの緩和戦略は大気質の改善、健康上の便益、渋滞の削減、材料需要の削減など、様々な便益をもたらすだろう。

シェアードモビリティーは、陸・空・海にわたる旅客・貨物サービスの需要を減少させる可能性がある。

EVの電池に必要な重要鉱物に関する懸念が高まっている。材料と供給の多様化戦略、エネルギーと材料の効率化などで電池生産の環境フットプリントと材料供給リスクを低減することができる。

航空分野では、高エネルギー密度のバイオ燃料、水素や合成燃料などがある。海運用の代替燃料としては、低排出ガス水素、アンモニア、バイオ燃料などがある。電化は、航空・船舶の短距離移動においてニッチな役割を果たし、港湾・空港運営からの排出を削減できる。

(9)農業、林業とその他土地利用は持続可能な方法で実施された場合、大規模な排出削減と除去の促進をもたらしうるが、他の部門の遅れを補うことはできない。また持続可能な方法で調達された農林産物は、他の部門でより排出量の多い製品の代わりに使用しうる。

障壁は気候変動の影響、土地に対する競合した需要、食料安全保障、土地の所有・管理制度の複雑さなどから生じるかもしれない。生物多様性の保全、生態系サービスといった便益を提供し、気候変動への適応を通してリスクを回避するための、国ごとに特有の機会が多く存在する。

(10)需要側による気候変動への緩和行動は、インフラ利用を変えたり、採用する技術を変えたりすることが含まれる。需要側の対策などで、食料や陸上運輸などエンドユース部門での世界全体の排出量を基本シナリオと比べて50年までに40~70%削減しうる。一方で、地域や集団によっては追加のエネルギーや資源が必要になる。

(11)CO2や温暖化ガスの実質ゼロを達成するなら、削減が困難な排出量を相殺する「CO2除去(CDR)」の導入は避けられない。CDR導入の規模と時期は各部門における総排出削減量の動向次第だ。CDRの大規模な導入の実現可能性と持続可能性は、効果的な開発に依存している。

(12) CO2を1トン当たり100ドル(約1万2千円)以下のコストで削減できる温暖化緩和の選択肢によって、世界全体の排出量を30年までに少なくとも19年の半分に削減しうる。

温暖化を2度かそれ以下に抑える場合、世界の国内総生産(GDP)は引き続き成長する。ただ気候変動によって生じた損害の回避や、気温上昇の対応に求められるコスト削減の経済的利益を考慮しない場合、現行の政策を超える温暖化対策を取らないシナリオと比べて50年には数%低くなる。温暖化を2度に抑えることの世界規模の経済効果は、温暖化を抑えるコストを上回ると多くの文献で報告されている。

D 緩和、適応、持続可能な開発の連携

(1) 気候変動の影響を緩和し、適応するための気候変動対策は、持続可能な開発のために非常に重要である。国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で採択された持続可能な開発目標は、気候変動行動を評価するための基礎として用いることができる。

(2)途上国は脆弱性が高く、適応能力が低い場合が多い。対応策によっては、人間の居住地や土地管理で、緩和と適応の両方の成果をもたらす。しかし土地や水域の生態系は緩和行動次第で悪影響を受ける可能性がある。政策と計画の調整で相乗効果を最大化でき、緩和と適応のトレードオフを回避か低減できる。

(3)緩和の強化や持続可能性に向けた開発経路を移行させるための行動は、国内と国家間に分配された影響をもたらす。衡平性への配慮や、あらゆる規模の意思決定で、すべての関係者が幅広く参加することで、社会的信頼を築き、変革への支持を深め、広げられる。

E 対策の強化

(1)短期に大規模で緩和する方法はいくつかある。実現可能性は部門や地域、能力、実施の速度と規模によって異なる。NDCを超える短期的な対策を強化することにより、オーバーシュートを回避、もしくは限定的なオーバーシュートに抑えることができる。

(2)すべての国において、より広範な緩和努力で排出削減のペースを上げ、規模を拡大することができる。より持続可能な開発に移行させる政策は緩和策を広げ、開発目標との相乗効果を追求することができる。

(3)各国の事情に基づいた気候ガバナンスは法律や制度を通し、枠組みを与えることによって排出緩和を支える。気候ガバナンスは複数の政策領域を統合することで、相乗効果を生み出し、トレードオフを最小にすることができる。効果的で公平な気候変動対策は、市民、政治家、企業をはじめとするコミュニティーの上に成り立つ。

(4)多くの規制や経済的な手段はすでに成功している。 これらの制度は、規模を拡大し、より広く適用すれば、排出量の大幅な削減を支援するうえ、イノベーションに刺激をもたらす。イノベーションを可能にする政策は、個別の政策よりも低排出な未来を実現するために役立つだろう。各国の状況を反映した経済政策は排出量を削減し、持続可能な開発と短期的な経済目標を達成することができる。

(5)資金の流れはすべての部門と地域において、緩和目標の達成に必要なレベルに達していない。途上国ではそのギャップを埋めることが最大の課題だ。資金を増やすためには、政府および国際社会による明確な政策決定とシグナルの発出が必要である。排出削減のための国際的な資金協力は、温暖化ガスの削減と公正な移行を実現する。資金へのアクセスを高め、気候変動によるコストにも対処することができる。

(6)国際協力は、気候変動に対する野心的な目標を達成するために重要である。国連気候変動枠組み条約、京都議定書およびパリ協定は各国の野心的な取り組みを支え、気候政策の策定と実施を促している。様々な規模で複数のアクターが関与するパートナーシップや協定、制度が増えているが、その有効性は一様でない。

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