インド太平洋で水素供給網 まず豪州と 脱炭素共同体で

日本が官民一体でアジアの脱炭素社会の実現を支援する取り組みが動き出した。経済産業省は4日、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の初の閣僚会合を東京都内で開いた。日本はオーストラリアで生産した水素を国内に輸送するサプライチェーン(供給網)を立ち上げる構想を明らかにした。
AZECは2022年1月の施政方針演説で岸田文雄首相が提唱した。官民でインド太平洋の脱炭素化を主導する狙いがある。閣僚会合にミャンマーを除く東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国と豪州、日本の11カ国が参加した。「経済成長と強じん性を両立してエネルギー移行を進める」との共同声明を発表した。
世界で脱炭素に向けた動きが進む中、日本はアジア各国の産業構造や地理的条件、発展のペースに合わせて移行を支援する。
手段の一つが水素だ。首相は会合に寄せたビデオメッセージで「豪州との間で初めての水素サプライチェーンを立ち上げる」と表明した。
日本水素エネルギー(東京・港)と岩谷産業、電源開発、住友商事が3日に覚書を結んだ。豪ビクトリア州で生産した水素を川崎市に運ぶ。使い道など詳細は今後詰める。西村康稔経産相は会合の冒頭で「水素サプライチェーンの構築をアジアを基軸にとらえながらインド太平洋に広げたい」と述べた。
AZECは今後、閣僚会合を年1回開くほか、定期的な実務者会合も続ける。
日本エネルギー経済研究所の予測では、アジアの発電量は年率2.1%で増加し50年には世界の半分ほどを占める。現状は石炭火力でおよそ半分を発電する。日本も21年度の電源構成で石炭火力が3割を占める。
日本は二酸化炭素(CO2)の排出削減に向けて水素やアンモニアの混焼を進める方針で、こうした技術開発や普及に向け、官民での資金支援を想定する。アンモニア混焼を巡っては、欧米を中心に石炭火力の延命策との厳しい見方もある。
AZECには中国やインドといった排出量が多い国は入っていない。
西村経産相は会合後の記者会見で「相互信頼に基づいた協力を推進できるメンバーで立ち上げた」と説明した。日本はASEAN諸国や豪州を取り込みつつ企業の商機につなげる。中国やインド、韓国とは2国間の枠組みがある。
日本は再生可能エネルギーやCO2の回収・再利用・貯留(CCUS)などにも力を入れる。送配電網などのインフラやクリーンエネルギー開発を財政面で支援する。移行エネルギーとして石炭よりCO2排出量が少ない液化天然ガス(LNG)も重視する。
3日のAZEC官民投資フォーラムで、日本とアジアの官民で28件の覚書を結ぶと明らかにした。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)はベトナム国営石油最大手ペトロベトナムとCCUSなどの実現をめざす。IHIはインドネシアの肥料会社と肥料製造工場の敷地内にグリーンアンモニア製造プラントを建設する技術検討を実施する。