デフレ戻るリスクなお 内閣府分析、需要・賃金上昇鈍く

内閣府は3日公表した日本経済に関するリポート(ミニ白書)で、現状の物価高について資源高や円安によるコスト増の影響が大半と分析した。国内需要の回復や賃金上昇が伴わなければ再びデフレに陥るリスクがあるとの見方を示した。
消費者物価上昇率は2022年12月に4.0%と41年ぶりの水準に達した。22年通年は2.3%と消費増税時を除くと31年ぶりの高さになった。
ミニ白書「日本経済2022-2023」は物価全522品目の変動率の分布を過去のインフレ局面と比べた。22年11月は最も多いゼロ近傍の品目の割合が1割程度と、20年12月の4割程度から下がった。分布の山はプラス側にずれて裾野が広くなった。石油危機発生後と似た変化だ。

今回の物価上昇は緩やかながら長期間にわたっているのが違う部分だ。過去2度の石油危機の際、国内の物価は原油相場が上昇に転じてから1年後にピークを迎えた。足元は「19カ月を過ぎた22年11月でも依然として上昇基調」にある。
食料品・日用品のPOS(販売時点情報管理)データで販売数量と価格変化の関係を調べると、価格が上がり数量が減っている商品が多かった。需要が増えて値段が上がっているわけではないことを示す。「供給要因が物価上昇の大半」「21年末以降の物価上昇はコストプッシュによる」と結論づけた。
経済の需要と供給力の差を示す需給ギャップは需要不足を示すマイナスのまま。賃上げも進んでこなかった。「需要や賃金上昇による物価上昇のモメンタムはいまだ生まれていない」と指摘した。
インフレ圧力の主因である輸入物価上昇がおさまれば「再びデフレに戻るリスクもなくなっていない」と警鐘を鳴らした。「緩和的な金融環境を変更する状況にない」と金融政策に言及した。
企業物価を分析すると、日本は川上の原材料は大きく上がっているのに対し、最終需要の段階の上昇は小幅にとどまる。高インフレの米国はこの差が小さい。
為替については1%の円安が1年後に輸入物価を1.7ポイント、企業物価を0.2ポイント、消費者物価を0.06ポイント押し上げると試算した。この結果も「企業内で物価上昇の影響が吸収されている」ことを示す。
家計側の状況も分析した。インフレによる負担増加額は2人以上の勤労者世帯で年9.6万円とはじいた。新型コロナウイルス対策の給付金などで積み上がった超過貯蓄は累計93万円と推計した。負担増加額の10倍で「現状の物価上昇をカバーするのに十分な規模」と評価した。
問題は、デフレや低インフレを長く経験してきた家計が物価上昇に「不慣れ」なことだと指摘した。将来不安から貯蓄に傾き、消費に積極的に向かわない節約傾向がうかがえるという。
企業が適正な価格転嫁で賃上げの原資を確保し、家計に還元することで購買力を高める。そうした「好循環」づくりを課題に挙げた。「企業が付加価値を維持することで投資・賃上げを継続できる環境を整えていくことが重要」とまとめた。