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高まる物価上昇圧力 不動産はインフレに強いのか

20代からのマイホーム考(47)

世界的にインフレ傾向が顕著になってきました。日本でもインフレを懸念する声が増えています。こうした中、不動産はインフレに強い資産なので、今こそ不動産を取得すべきだとの意見があります。果たしてこれは本当なのでしょうか。

インフレとは

インフレとは、一定期間にわたって財やサービスの価格が全般的に上昇することです。では、どのようなときにインフレとなるのでしょうか。財やサービスに対する需要が増えたり、供給が減ったりすることによって発生すると考えられています。また、お金の流通量が経済成長率より早いスピードで増加することでも起きると考えられています。

異次元緩和がもたらしたもの

デフレからの脱却を目指し、2013年から物価上昇率2%を目標とする日銀の異次元緩和が実施されました。これによって、企業の設備投資に拍車がかかり、企業業績が向上、給料も増え、有効需要が増えることで物価も上昇、さらに企業は供給を増やして業績を上げ、給料を増やすという好循環をつくろうとしたのです。

しかし、残念ながら消費者物価は思ったようには上昇しませんでした。一方で、株価と不動産価格が上昇するという資産インフレが発生しました。だぶついたお金が株や不動産に向かったことが原因といわれています。不動産については、低金利で買いやすくなったこと、共働きのパワーカップルが増えたことも需要増の一因といわれています。

しかし、今、日本国内でもインフレになるのではないかとの懸念が出ています。問題は、インフレになったときに、不動産価格はさらに上昇していくのかどうかということです。

良いインフレと悪いインフレ

景気が良く、給料も上がり、需要増を背景に企業の業績も改善して、さらに給料が上がるという好循環ならば物価も不動産価格も上昇するとみられます。このような良いインフレならば、不動産はインフレに強いと解釈できそうです。

しかし、今想定されるインフレはどのようなものでしょうか。新型コロナウイルス禍の供給制約で物価が上がる、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー資源の調達に問題が発生してエネルギーコストが上昇する、物価上昇対策のための米金利上昇で円安が進み輸入品の価格が上昇するなど、需要増を伴いにくい悪いインフレが想定されています。

不動産は悪いインフレにも強いのか

このような悪いインフレが継続した場合でも不動産価格はインフレに強いと言えるのでしょうか。住まいの購入を考えている人の給料が上がらない、可処分所得は物価上昇で実質的に減少する、生産年齢人口も増えないとなれば、需要は減退するので不動産価格の上昇が続くとは考えにくいでしょう。投資用不動産でも、賃料が上昇する理由はあまり見当たりませんから、投資用不動産価格の上昇も考えにくいと思います。

日本国内では日銀が大規模な金融緩和を維持するとの政策がとられていますが、長期金利は上昇傾向にあるようで、住宅ローン(固定金利)も少し上がってきました。金利が上がれば不動産価格は下がりやすくなるというのが一般的です。

もちろん、誰もが欲しがる需要の高い立地や物件ならば値下がりはしにくいでしょう。特に国際的にも評価が高い立地や物件であれば国内外の投資家が投資したいと考えていますし、国際的に見て東京都心部の好立地については、不動産価格はまだ安いと考えられている面もあるからです。

こうして考えてみると、すべての不動産がインフレに強いとは必ずしも言えません。やはり需要と供給のバランスで価格は決まっていく、ということなのではないかと思います。

田中歩(たなか・あゆみ)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。

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住宅資金は老後資金、教育資金と並ぶ人生三大資金です。20代、30代から考えたい「失敗しないマイホーム選び」について不動産コンサルタントの田中歩氏が解説します。隔週月曜日に掲載します。

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