リースバックのトラブル避ける 家賃や契約期限を確認 - 日本経済新聞
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リースバックのトラブル避ける 家賃や契約期限を確認

20代からのマイホーム考(58)

自宅を売却後も賃借してそのまま住める「リースバック」という仕組みをご存じでしょうか。高齢者世帯を中心に、老後資金の確保や住み替えを目的として利用するケースがあります。ただ、仕組みの複雑さからトラブルも発生しているといわれています。

リースバックで賃借人に

リースバックではまず、資金を得るために自宅をリースバック事業者などに売却します。売却後も元の持ち主は、新たに所有者となったリースバック事業者と賃貸借契約を結び、そのまま賃借人として暮らすことができるという仕組みです。

元の持ち主は賃借人になるので家賃を支払う必要はありますが、固定資産税などの維持費を負担しなくてもよくなります。半面、所有者ではなくなるので自らの判断で自由にリフォームしたり、設備を交換したりするといったことができなくなります。

リースバックと聞くと、バブル崩壊後に企業が資金調達などを目的に本社ビルを売却しその後も賃借する、といった取引を思い出す方もいらっしゃると思います。現在は元の自宅に住みながら生活資金を確保したり、高齢者施設へ入居できるまで住み続けながら入居一時金を捻出したりする、といった目的でも利用されるようになっています。

売却価格と家賃のバランスに注意

リースバックを利用するうえで最初に確認しておきたいのは「売却価格と家賃のバランスが自身のニーズに合っているのかどうか」という点です。

リースバックでは自宅の売却で資金を得られる一方で、賃借人として家賃を支払う義務を負います。仮に売却価格が満足のいく水準だったとしても、家賃が想定以上に高いうえ長期にわたって元の自宅に住み続けたい場合は、家賃の総支払額が自宅の売却価格より大きくなってしまうという問題が生じることもあります。後日、こうした問題に気づいても解約できずトラブルになったという事案もあります。

元の自宅に長期間、住み続けることを重視するならばリースバックよりも、住まいを担保にして金融機関などからお金を借りる「リバースモーゲージ」というローンを検討したほうがよいかもしれません。調達できる金額はリースバックよりも少なめになるものの、生存中の返済は利息のみ。借り手が亡くなった後に土地や建物を売却して借り入れた全額を一括で返済するというのが一般的な仕組みです。

賃貸借契約条件をよく確認

リースバックでは不動産売買契約だけでなく、併せて結ぶ建物賃貸借契約の条件について十分に確認する必要があります。トラブルでよくあるのが「家賃を支払い続けていればずっと住んでいられると思っていたのに、一定期間後には退去しなければならない条件となっていた」という事例です。これは建物賃貸借契約の種別が普通借家契約ではなく、定期借家契約だったというケースです。

普通借家契約は更新のある賃貸借契約で、広く一般に利用されています。実質的に借り主が更新を拒絶しない限り住み続けられます。一方、定期借家契約は期限が決められており、更新のない契約です。原則としてその期限が来たら借り主は退去しなければなりません。リースバックでは定期借家契約を使うケースが多いので、いつまで住み続けられるのか契約内容をよく確認する必要があります。

親族や専門家に相談を

リースバックは通常の不動産売買より複雑な仕組みになっており、消費者のニーズによってはリバースモーゲージのほうが適していることもあります。トラブルが増えていることから国土交通省は6月に「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公表しているので、利用を検討している場合はまずは一読することをお勧めします。それでも不安な場合は近しい親族や、金融と不動産の両方に詳しい専門家に「セカンドオピニオン」をもらうことも検討するとよいでしょう。

田中歩(たなか・あゆみ)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。

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住宅資金は老後資金、教育資金と並ぶ人生三大資金です。20代、30代から考えたい「失敗しないマイホーム選び」について不動産コンサルタントの田中歩氏が解説します。隔週月曜日に掲載します。

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