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人生の様々な「リスク」をサポート 公的制度のすごみ

年金と社会保障の役割(5)

これまでは主に年金制度を中心に説明してきましたが、最後の週は少し広く社会保障制度全般をとらえてみたいと思います。

病気になって分かる健康保険制度の素晴らしさ

給与明細をみたとき、厚生年金保険料と同じくらい「こんなに引かれるなんて!」と不満を覚えるのは健康保険料でしょう。

健康な人の場合、1年に1度も病院に行かないことがありますが、こういう人からすれば収入から約5%の保険料が引かれるのはなかなか重い負担です。

しかし病気にかかったりけがをしたりすると、これくらい助かる制度はないと身にしみます。まず、実際の医療費の30%のみを自己負担すれば診療が受けられるため「苦しいけど病院には行けない」と心配することはなくなります。日本は「国民皆保険」の制度が確立されているからです。

海外では自己負担が高額になるためそうそう診療を受けられない国や地域があります。仮に新型コロナウイルスにかかったとしても「病院に行ったら何百万円も請求されるかもしれないから、行かずに我慢して治そう」ということがありません(日本では新型コロナは「指定感染症」の扱いのため自己負担なしで治療が受けられます)。

また高額療養費制度という仕組みがあるので、医療費が天井知らずになることもありません。これも重要な制度です。また会社をお休みしてしばらく療養をする場合には傷病手当金という制度があって、給与の約3分の2相当を最大1年半もらいながら、復職を目指すこともできます。

本当に困ったときしか制度のありがたみは分かりませんが、私たちの健康保険にはこうしたベースがあることを知っておきたいものです。

勤務先の倒産、仕事中のケガ… 雇用保険と労災保険が支えに

勤務先の会社がある日つぶれてしまったら……。会社員なら誰もが恐れる事態ですが、新型コロナの影響もあり、今はそういうリスクと無縁ではありません。

雇用保険制度はこういう状況に陥ったときに、次の仕事を探すまでの一定期間、給付金を出す制度です。求職者給付といいます(一般には失業手当と呼ばれることもあります)。これにより、アルバイトしながら仕事を探すとか、アルバイトのために転職活動ができない、といったリスクから解放されます。

雇用保険にはそれ以外にもいろんな側面があり、資格取得などの職業訓練についての給付金が受けられます(教育訓練給付)。私もこの制度でファイナンシャルプランナーの資格を取得したことが人生の転機になりました。

また、育児休業期間中の給付を行うのも実は雇用保険の役割のひとつです(育児休業給付)。こうした制度があるおかげで「体はまだしんどいし、子どもは生後1カ月だけれどとにかく復職しなくては」という事態にならずにすむわけです。

仕事中にけがや事故に遭った場合には労災保険があり、治療費の全額がカバーされるほか、療養期間については給付が行われる仕組みもあります。

こうやって考えると、いろんな制度が私たちの困ったときをサポートしていることが分かります。

「親の面倒は子が見るのが当たり前」ではない時代の介護保険

さらに40歳になると介護保険に加入し保険料を引かれます。全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入する会社員などは健康保険料とセットで徴収されますが、これもまた社会的リスクを支える制度です。

誰もがいつかは老いますが、介護を要する状態がいつくるのか、またどれくらい続くかは人それぞれです。自分自身の問題だけではなく「親の介護」の問題もあります。しかし、家庭内でこれを負担することには限界があります。

介護保険は要介護の状態に応じて一定の介護サービスを利用できる仕組みです。かつては「親が要介護になったら子が(実質的には妻が)仕事を辞めて介護に専念する」というようなことが行われていました。しかし現代の共働きの時代にはそぐいませんし、親の住む場所が子と離れていたら介護のために転居も必要になってしまいます。

また、子どもがいない人も介護が必要になる可能性がありますが、子がいなければ介護をまったく受けられないというのも恐ろしい未来です。

社会保障制度の共助により、介護の受け手を広く社会が支える時代になりました。超高齢化社会を迎え、また独居老人の世帯がさらに増える未来に、介護保険の役割は一層高まっていくことでしょう。

苦しいときは頼ればいい、生活保護制度

社会保険料を納める仕組みではなく財源は税金ですが、生活保護制度も私たちの社会的リスクをヘッジしてくれる重要な仕組みです。今のような時期に無職になって経済的に困窮したり、DV(ドメスティックバイオレンス)を受けて子連れで避難したシングルマザーなど、経済的な立て直しを必要とする人の生きる権利を国は保障する責任があります(生存権の保障)。

本当に苦しい状況に追い込まれたときも、日常生活を営める程度のセーフティーネットがあることは社会においてはとても重要なことであり、これを否定することはよくないことです(不正受給を問題視するのと、生活保護費の受給そのものを問題視することは違います)。

もちろん、将来働けるようになったら生活保護のサポートから抜けだし、自立していくことが大切ですが、苦しいときには国がしっかり支えてくれることで、人はチャレンジをしたり、トラブルを乗り越えたりできるのです。

制度の保障内容をよく理解するリテラシー

公的年金制度や社会保障制度などの仕組みを知ることは私たちのマネーリテラシーの基盤でもあります。

例えば「老後の日常生活費=公的年金」「老後のゆとりや安心=自助努力」と整理することで現実的な老後の目標が設定でき、あやしい投機話にだまされずにすみます。実際には公的制度から手厚い保障が受けられるにもかかわらず、高額な保険料の生命保険に加入し毎月の生活に困窮するようになったという本末転倒の状況も避けることができます。

頼ることのできるセーフティーネットの存在を知っていたことが、一家離散や一家心中のような悲劇を避ける力となるかもしれません。

若い人の中には「国なんてどうせ何もしてくれない……」と思う人もいるかもしれませんが、年を重ねるごとに、あるいは苦しい状況に陥ったときに、国の社会保障やセーフティーネットの強みを知ることになります。そしてその力を支えているのは、元気なときに私たちが納めている社会保険料や税金の力なのです。

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FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「大人になったら知っておきたいマネーハック大全」(フォレスト出版)など。http://financialwisdom.jp

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