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在宅勤務の費用分担 「非課税枠」で個人の手取りは?

知っ得・お金のトリセツ(37)

家で仕事するにはコストがかさむ。光熱・水道費や通信費から食費、消耗品まで……。在宅勤務が新たな行動様式になるにつれ、その費用負担について関心が高まっている。仕事にかかる費用は一義的には会社が支払うべきだが、職場=家になったときどこで公私を切り分けるのか? かからなくなった交通費をどこまで減らし、どこまで在宅勤務手当に振り向けるのか? ことは税金のかかり方も絡むだけに一筋縄ではいかない。呼応して国税庁は先日、会社員個人の税負担が増えることを心配せずに企業が在宅勤務手当の形で出せる「非課税枠」について、考え方の指針を示した。出発点として参照しつつ、最終的には労使間で議論を深める必要のある問題だ。

交通費は上限月15万円までの非課税枠あり

まず、最近手元に届いた源泉徴収票を見てみよう。「支払金額」と書いてあるのが額面の年収。残業代やボーナス、各種手当を含め昨年1年間に会社からもらったほぼすべての金額がここに含まれるが、例外的に足されていないものもある。その代表が通勤手当、つまり交通費だ。個人が収めるべき所得税を計算する基になる「課税所得」の外枠に存在しているので、合理的な交通費の金額である限り、いくらもらっても個人は税金を納める必要はない。公共交通機関を利用する場合の上限枠は月15万円と結構大きいので、新幹線利用も「合理的でない」グリーン車代金を除き、企業は非課税の通勤手当に含めることができる。

しかも実際には定期代相当額が年2回などまとめて支給されるが、定期券を買わずにスイカやパスモなど交通系電子マネーにチャージして通勤する人は多い。交通費以外に「ピピッ」とすることがあっても、結局は事後的に自分の稼ぎからチャージするわけで誰も目くじらは立てない。労使双方にとって通勤手当とは、長年の労働慣行の中で育まれてきた便利な非課税枠といえる。

在宅勤務手当は課税対象

一方で枠組みの整備が始まったばかりなのが在宅勤務に関わる手当だ。極端な例だが仮に交通費を月15万円支給されていた社員がフルに在宅勤務になったとしたらどうなるか? 交通費が「在宅勤務手当」に置き換わった途端、家族手当や住居手当などその他の手当と同様、年収に含まれる課税対象になるのが現行のルールだ。所得税率20%としてごく単純化して考えると、会社の出すお金は変わらなくても会社員個人の所得税負担が年36万円(在宅勤務手当月15万円×12カ月×所得税率20%)増えてしまうわけだ。

この税の枠組みがある以上、在宅勤務に関するコストについて会社が選びうる選択肢は主に3つ――①実費で精算する②非課税の範囲で在宅勤務手当を出す③課税を前提に非課税枠以上の手当を出す、になるだろう。

企業の3つの選択肢

①の実費精算については、在宅勤務手当にかかわらず共通した考え方がある。領収書に基づいて支払う業務上必要な金額は会社の経費とすることができる。会社員個人は精算を受けても課税されず、会社は税務上の損金に算入できる。とはいえ双方ともに手間だし、会社は経費が増えれば利益は圧迫されるから青天井に認めるわけにいかない。交際費などと同様、社会通念上適切な範囲を超えて経費化すれば税務上のリスクを抱えかねない。

いちいち精算せずに「月1万円」など一定の額を決めて手当として支払う②、③の場合に「非課税で支給できる基準を明確にしてほしいという要望が多かった」(国税庁)ことから示されたのが、このたびの指針だ。

通信費は半額、光熱費はさらに「業務スペース」で案分

通信費は在宅勤務でかかった分の半分を非課税枠とする。例えば1カ月30日の月に20日在宅勤務を行い、月間通信料(基本使用料+データ通信料)が1万円かかったとすると1万円×20/30×1/2で3334円(1円未満切り上げ)が非課税枠になる。

「半分」なんてずいぶんザックリ、と思うかもしれないがそこにも一定の合理的な基準を伴うのが税金ワールド。法定労働時間8時間は1日24時間のうち国民の平均睡眠時間7時間40分(切り上げて8時間)を除いた半分に相当する、という論理。起きている時間の半分は仕事で半分はプライベートというわけだ。

さらに公私の切り分けが難しい電気代の場合は「業務のために使用した部屋の床面積」を「自宅の床面積」で割って案分する。上の例で電気代が月1万円で書斎の広さが自宅の2割なら、1万円×20/30×1/2×2/10で667円が非課税枠――こういう計算だ。

間取り図が必要?

この枠内なら会社は従業員の税負担が増えることを気にせずに手当を出すことができるが、厳密な運用には電気代の領収書や家の間取り図まで提出が必要になる。そうまでしても結局「一番広いリビングで仕事しましたけど、何か?」という事態も想定される。現場を知る税理士からは「手間が増えては税制面から在宅勤務を支援するという趣旨に反する。まずは計算式を出した上でゆくゆくは交通費のように額で非課税枠が示される方が望ましい」(柴原一税理士)との指摘もある。

「手取り」は増えるか?

会社員個人にとって最大の関心事、手取りが増えるのは主に③の場合だ。上記の計算でわかる通り、通信費や電気代の非課税枠は大きくはない。会社が不要と判断した通勤手当をなくした上で「所得税が取られたらかわいそうでしょ」と非課税枠にこだわるなら、多くのケースで会社員の手元に入るお金は減る。交通系電子マネーにチャージして払える使い勝手を考えれば実感的にはなおさらだ。

そうならないためには会社は課税による減少分も勘案し、あらかじめ多めの手当を支払う必要がある。実際、在宅勤務シフトを進める先駆的な企業の間では③のケースが多い。「交通費が不要だから」と差し引きで手取りが減るようなことになれば、会社員の士気は下がる。テクニカルな課税・非課税の枠は踏まえた上で、それにこだわらない新しい働き方にふさわしい手当のあり方を模索する時代だ。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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