住宅ローン金利、日銀の金融政策で見通す - 日本経済新聞
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住宅ローン金利、日銀の金融政策で見通す

20代からのマイホーム考(68)

2022年12月の金融政策決定会合で長期金利の変動許容幅をプラスマイナス0.5%程度に拡大すると決めたことから、日銀が金融緩和政策を転換するのではないかと話題になり、住宅ローンの固定金利は上昇しました。23年1月の会合では大規模な金融緩和策を維持すると発表しましたが、住宅ローン金利は今後、どうなるのでしょうか。

長期金利、国債買い上げでコントロール

中央銀行として金融政策を担う日銀が金利を下げるのは景気が悪いとき、上げるのは景気が良いときです。2010年の「包括的な金融緩和政策」導入以降は景気を刺激し好転させるために政策金利を引き下げたり、国債などを買い上げて長期金利を引き下げることで資金の供給量を増やしたりして企業や個人がお金を借りやすくし、経済活動を活発にさせようとしてきたのです。

日銀の金融政策には銀行に貸し付ける「政策金利」で短期金利をコントロールするものと、金融機関が保有する国債を買い取ることで長期金利をコントロールするものがあります。日銀は当初、政策金利を下げることで景気を刺激しようとしましたが思った効果が出ず、13年以降は国債を市中から買い上げて資金供給をすることや、日銀にお金を預ける日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を設定することで金融機関が貸し出しにお金を回しやすくする「マイナス金利」の導入などを実施してきました。その結果、住宅ローン金利は極めて低く抑えられてきたのです。

国債保有割合、5割超え最大に

ただ、日銀による国債保有割合が22年9月末に5割を超え過去最大となりました。本来、国債は市場で金融機関などに取引されるのが一般的ですが、残高の半分以上を日銀が保有しているのは異常なことです。日銀以外で国債を保有するのはほとんど国内の金融機関や投資家なので、「日銀がどんどんお金を刷って買い取っても国債価格が暴落(長期金利は急上昇)することはない」という意見もあります。

しかし、市場では長期金利が変動許容幅の0.5%を超える(日銀のコントロールが効かないほど市場圧力が高い)ことがしばしばあります。英国年金基金による売りがきっかけで英国債が暴落したという例もあります。近い将来、日銀が国債の買い上げをやめる、すなわち金融緩和をやめるという方向転換が必要になるだろうといわれています。

環境整えば政策転換も

日銀が利上げを決めるとすれば、景気が良い状態であることと、経済への影響が少ないことが条件となるでしょう。日銀が23年1月の会合で緩和を継続すると発表したのは「まだ日本の景気はそれほど良くない」と考えているからだと思われます。一方、今年は賃上げする企業も増えそうだという見方もありますし、国際通貨基金(IMF)による日本の経済見通しも悪くはありません。今年の春闘の結果、賃上げする企業が増えたり、国内総生産(GDP)が想定以上に伸びたりすれば、利上げ環境が整う可能性はあります。

さらに、日銀は米国と同じタイミングで利上げをすれば、日米金利差があまり変化せず、国内経済への影響(例えば為替変動に伴う輸出入への影響など)をさほど気にせずにすむ、と考えている可能性があります。米国は金融引き締めに転換していますが、このところ景気に陰りがみられるともいわれています。もう一段の利上げはあるとしても今年と来年くらいしかないのではないかとの意見があります。とすると、日銀が政策転換できるチャンスも今年か来年かもしれません。

住宅ローン、固定金利の上昇を予想

筆者は「日本経済が一気に好転するとは考えていないので、短期金利はこれまで通り低く抑える。一方、市場圧力が高まる長期金利については変動幅を広げたり買い上げる国債を5年国債などに切り替えたりするなどして、10年以上の長期金利の上昇をある程度許容する政策を展開するのではないか」と考えています。その結果、住宅ローン金利も短期金利に連動する変動型はほとんど変わらず、長期金利と連動する固定型は上昇すると予想しています。とはいえ、変動金利についてもこの先何年も低いままとは考えないほうがよさそうです。

田中歩(たなか・あゆみ)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。

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