郊外中古戸建て、コロナ下で取引増 人気は本物か
20代からのマイホーム考(15)

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、テレワークが広がり、郊外の一戸建てが売れているという話をよく聞きます。実際、筆者もリモートによる打ち合わせが増加し、自宅勤務の頻度が高まっています。自宅で集中して仕事ができる空間が欲しいというニーズは着実に高まっており、その結果、都心部より手ごろな価格で買える郊外に住みたいという方が増えているといわれています。総務省が発表した住民基本台帳人口移動報告によると、11月の東京都の転出者数は前年同月比19.3%増で5カ月連続の転出超過となりました。
しかし、中心部のマンションや戸建てが売れなくなったという話は今のところ聞こえてきません。郊外の戸建てに対する消費者のニーズは、コロナ前と後でどのように変化したのでしょうか。そして住宅マーケットに地殻変動が始まっているのでしょうか。
中古戸建ての取引件数の割合が増加
コロナ前後で、中古戸建てと中古マンション取引件数にどのような変化があったのか、東日本不動産流通機構が発表している市況データをもとに調べてみました。まずは首都圏の1都3県のうち、東京23区を中心エリア、それ以外を郊外エリアと定義します。そのうえで2018年1月~20年11月の中古戸建てと中古マンションの取引件数の割合をみると、20年4月以降は郊外エリアにある戸建ての取引件数の割合が増加しています。20年3月までは郊外エリアの戸建ての取引件数の割合は平均21.0%でしたが、4月以降の平均は23.8%と2.8ポイント上昇しています。
一方、中心エリアの中古マンションは31.4%から30.1%に、郊外エリアの中古マンションは43.1%から41.8%にシェアを落としています。ちょうど、中心エリアと郊外エリアの中古マンション取引が減った分が、郊外の中古戸建てにシフトした形になっています。今回利用しているデータは、一部の取引しか登録されていませんので、この結果が現実世界と完全に一致するわけではないものの、傾向としてはおおむね正しいのではないかと思います。
郊外の中古戸建て、成約単価はやや下落
では、郊外戸建ての割合上昇は、その価格が上昇するような勢いがあるレベルのものなのでしょうか。18年1月から20年11月までの郊外の中古戸建ての平均成約単価〔建物延べ床面積1㎡あたりの成約単価〕を見てみると、今年3月までは24.9万円、4月以降は24.4万円となっておりやや下落しています。一方、中心エリアの中古マンションの成約単価は77.9万円から81.2万円に上昇しています。このように成約単価だけで見ると、中心エリアのマンションはまだまだ需要が高い可能性があるようです。

以上から、郊外の中古戸建てニーズは高まっているとはいうものの、依然として中心エリアの中古マンションの勢いには及ばない状況であったことがうかがえます。
住まいに対する価値観は新たなステージに
働き方が変わることで、住宅市場は大きく変わっていくのか、あるいはそうではないのか。筆者は、郊外の戸建てニーズが高まったというこの1年の動きは、最寄り駅への近接性、勤務地への近接性、築年数といったものに力点が置かれていた住まいに対する価値観が、新たなステージにシフトし始めた兆しであると考えています。
リモート業務が可能になったおかげで通勤にかける時間が減少し、その分豊かな時間を過ごせる居住空間がほしい、郊外ならば住まいを取り巻く地域という空間価値も取り込んで豊かに暮らしたいという考えが生まれ、勤務地との関係から導出される立地や居住空間だけにフォーカスする閉じた価値観ではなく、住まいとその周辺地域という広い空間価値、そこに暮らす人々とのつながりも含めた空間価値などが重視されるようになりつつあるのではないかと考えています。来年1年の動向はこうした将来のマーケット像をはっきりと映し出す原点となるかもしれません。

住宅資金は老後資金、教育資金と並ぶ人生三大資金です。20代、30代から考えたい「失敗しないマイホーム選び」について不動産コンサルタントの田中歩氏が解説します。隔週月曜日に掲載します。
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