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いよいよジャクソンホール 市場の本音とは

今年の「ジャクソンホール会議」を、市場は「例年以上に特別な会議(something special)」と位置付け、身構えている。

週明けの株価も弱含みである。そこで、市場が知りたいことは、ただ一つ。「今年は利上げ、来年は利下げ」との予測の妥当性だ。

強力なインフレ退治作戦の副作用として生じる「リセッション」あるいは「経済減速」への対応として、来年後半には米連邦準備理事会(FRB)は金融緩和への政策転換(ピボット)を強いられるであろう。この見通しをよすがに、米株価は、0.75%幅の連続利上げにもかかわらず、上昇を続けてきた。

しかし、FRB高官たちは、強く反発。まずは、執拗な物価上昇を抑え込むことが急務。市場は先走っている、と一蹴している。緩和などいまだ先の話で、考える心理的余裕もないとのニュアンスが強く伝わってくる。

対する市場は、素直に信じることができない。そもそも昨年「インフレは一過性」と痛恨の判断ミスを犯して以来、「FRB不信症」が市場内に拡散している。

かくして、FRBと市場の言い分が平行線をたどったまま、ジャクソンホールというメインイベントに突入する次第となった。

そもそもジャクソンホールはアカデミックな経済政策論などを交わす場であり、9月の利上げが0.5%か0.75%かなど具体的な米国金融政策を論じる場ではない。それは米連邦公開市場委員会(FOMC)が決めることだ。パウエル議長が、先走ってジャクソンホールでの講演で具体的に言及すれば、「ルール違反」とされよう。それでも、市場は、パウエル議長講演原稿の行間を読み、考えるヒントを模索する。さらにジャクソンホールでのFRB高官発言も見逃せない。避暑地でカジュアルなウエアの中央銀行幹部たちに経済メディアはインタビュー攻勢をかける。時にスクープ合戦の様相を呈するほどで、そこからリークされる情報を特に投機筋が重要材料に仕立て上げ、市場を荒らす傾向がある。

それゆえ、冷静にこれまでの経緯を、客観的に、まとめておく必要があろう。

インフレ退治のために、FRBは今年3月からわずか4か月ほどで政策金利を、ゼロから「中立金利」とされる2.5%水準にまで引き上げた。ここまでの利上げ連発第1弾を、インフレ対応に出遅れた分の取り戻し作戦とすれば、今後の利上げは、より攻撃的に物価上昇を力ずくで抑え込む第2弾と位置付けられる。現時点で、第1弾の政策効果は確認できていないことはパウエル議長も認めている。金融政策効果発揮にはタイムラグがあるからだ。それゆえ、第2弾の引き締めはかなりのリスクを伴う。現時点で市場が想定していることは、9月FOMCで0.5%か0.75%、11月、12月に0.25%、さらに、量的引き締めの本格化(毎月上限950億ドルのバランスシート縮小)の合わせ技だ。かなりの劇薬投入といえる。既に2四半期連続のマイナス成長でテクニカル的には不況入りのレッテルを貼られた米国経済をさらに引き締めることになる。パウエル議長にしても副作用は覚悟の上の悲壮な決断だ。

頼りは、強い労働市場。最新の雇用統計では失業率が3.5%、新規雇用者数は月50万人を超えた。さらに求人件数は頭打ちとはいえ、1千万件を上回る。これで不況入りとは、到底思えぬ統計数字が並ぶ。そこで、引き締め第2弾の影響について様々な議論が交わされている。失業率が4%台に上昇しても、米国経済は耐えられるのか。月次の新規雇用者数の伸びが10万人台に減少しても、労働市場の過熱感が平時に戻る過程と位置付けられるのか。ただし、既に上昇した賃金は、下がりにくいのではないか。雇用統計でも年率5%を超えた水準が続いている。

いずれにせよ、労働市場を緩衝材として、引き締めは第2段階に突入する。

対して、これまでの市場の反応だが、株価も一時はダウ工業株30種平均が3万ドルの大台を割り込んだ。過剰流動性の落とし子ともいえる仮想通貨も暴落した。特別買収目的会社(SPAC)からも巨額の資金が流出した。

しかし、その後、株価は反発を開始。ベア・マーケット・ラリー(弱気相場の中の買い戻し局面)と言われつつ、ダウ平均は3万4000ドル水準まで戻した。買いの根拠は「今年は利上げだが、来年は不況が深刻化して、FRBは引き締めから緩和への政策転換を強いられる」との見解だ。

以上の流れのなかで、ジャクソンホールの注目点について、週末にニューヨーク市場のヘッジファンドや年金運用担当者たちと「ズーム会議」で議論する機会があった。以下は、そのまとめである。

最新の米消費者物価上昇率は8.5%で、やや頭打ち傾向とされる。今後、8%台を5%程度まで下げるのは、現在の金融政策で十分に可能であろうが、問題は5%台から3%台への低下にてこずりそうなこと。賃金と家賃など住宅関連の分野でのコストは一旦上がると下がりにくく、粘着性が根強い(sticky)と表現される。ここを打開するには、ターミナルレート(利上げの終着点)の4%程度までの引き上げが必要なのか。

次に、過熱するインフレを冷やすため、FRBは、どの程度の失業増や株安を容認するのか。失業率は3.5%から4%台半ば程度まで上昇しても、歴史的に見れば、高失業率とは言えない。株価については、具体的数値をFRBがコメントするはずもないが、「市場の安定」も中央銀行のミッションだ。仮に視界不良の状況で株価が暴落すれば、「今年は利上げ、来年は利下げ」について、FRBは、これまでの強い反発の姿勢を和らげる可能性があるのか。連続利上げを1回休み(pause)、点検のうえ、次の一手を決めるシナリオはどうか。最後は、結局「困ったときのパウエル頼み」との本音が透けた。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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