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家族法からみる日本の「家」のお金(山口真由)

賢人に聞く「お金と人生」の本(下)

「時間があるときは幹となる情報を得られる本を読んでほしい」と話す信州大学特任准教授の山口真由さん

財務省や法律事務所での勤務経験の後、米ハーバード大学のロースクールに留学、ニューヨーク州弁護士の肩書を持つ山口真由氏の専門は家族法だ。この分野で2020年3月に東京大学大学院で法学の博士号を取得した。信州大学特任准教授で、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍している山口氏にお薦めの本を挙げてもらった。

『親子と法-日米比較の試み』(樋口範雄著)
②『マンキュー マクロ経済学(第3版)Ⅰ入門篇』(N・グレゴリー・マンキュー著)(注)現在第3版は絶版、最新版は第4版
③『コロナ後の世界』(大野和基編) 

―――まず、専門分野の家族法関連の本『親子と法―日米比較の試み』を挙げています。

樋口範雄著(弘文堂)

著者の樋口先生には東大の時に英米法を習いました。この本はエッセー調で、割とさらっと読める本だと思います。日本と米国を比較し、それぞれ財産やお金について家族と個人がどういう関係にあるか全体像がよくわかる本です。お金の面でいうと、米国ではお金は個人に帰属しますが、日本は家庭内、いわゆる「ウチ」や家に帰属するという価値観が今も残っていることがわかります。

――具体的にはどんなことですか。

この本の中に、米国では「不法行為の責任を子どもに問う」という事例が出てきます。5歳9カ月の子どもの不法行為について、その子が賠償責任を負うという判決が出る話から始まります。一方、日本では子どもの不法行為の責任は親が負うという考え方です。扶養についても、日本には子が親の老後の経済的な面倒を見るべきだという価値観が強くありますが、米国ではそういう価値観は日本より弱いと思います。

――初版は1988年に発行されています。新規に購入する場合は受注生産となっているので入手に時間がかかりますが、今読んでもあまり古さを感じさせないですね。

そこがおもしろいところです。日本の家族法というのは江戸時代の家制度の感覚からほとんど変わっていないように思います。例えば、相続制度です。財産は個人に帰属するのが基本なので、その人が亡くなったら財産をバラバラにして相続人が受け継ぐわけですが、日本には財産は家に帰属しているという考え方があるため相続では当然のように遺留分(法定相続人に最低限保障される遺産取得分)を請求できます。親の財布は自分の財布、子が成人になってもなお、縦に縦に連綿と「家」が続くという感覚があるわけです。だからこそ、子どもが親の介護費用を払うことについても、さほど抵抗がないのです。

――近年はその感覚が変化しているように感じます。

日本ではこの家制度が長い間、社会のセーフティーネットになっていたと思いますが、今は「家」が明らかにやせてしまっています。少子化の影響で家の担い手が少なくなり、昔は複数の兄弟間で支え合えたものですが、それが難しくなっています。米国の家族関係が決してバラ色ではないことを理解したうえで、日本は今後、親と子どもの財布が切り離された世界の中に飛び込んでいかざるを得ないのだろうと思います。

――お金の問題についてはどうでしょうか。この本を読むと何か気づきは得られますか。

日本の家庭ではお金に関するタブーが多いように感じます。親の老後の問題について、兄弟間で話し合うのが難しいという家族が多いようです。だから、少しクッションをおく意味で、米国の家族のあり方や家族のお金の問題の整理の仕方をこの本を読んで知ると、タブーなく自分の親の老後にも向き合えるのではないでしょうか。親子とお金の問題は切っても切り離せない関係ですが、自分の親となるとすごく行き詰まる部分があります。親の介護の問題を自分だけで抱え込んでしまう人も多いので、視野を広げるのによい本だと思います。

――米ハーバード大学法科大学院に留学されていますが、留学中にも米国と日本の違いを感じましたか。

米国ではお金の稼ぎ方について学ぶため、子どもたちが路上でレモネードを売っているのをよく見ました。お金をどうやって稼ぐのかを家庭で抵抗なく教えています。知り合いの米国人からは、子どもにお金を与えるときは、サラリーマンのようにしないために定期的なお小遣い制にはしないと聞きました。さらに、お金を与えたら3分割しないさいと指導するそうです。1つ目は貯金、2つ目は自分が成長することへの投資、3つ目は自分が好きなように使っていいよ、と。私自身、そういうお金の教育は受けたことはなく、どちらかというと家庭内でお金の話をするのはよくないという考え方で育ちました。日本ももっと子どものころからお金の使い方や稼ぎ方などを伝えていくべきだと思います。

――2冊目のお薦めは『マンキュー マクロ経済学(第3版)Ⅰ入門篇』です。

N・グレゴリー・マンキュー著(東洋経済新報社)※第3版は絶版で現在は第4版が刊行されている

財務省で働いた経験がありますが、あまりマクロ経済について詳しくありません。どうしたらよいかと財務省の先輩に相談したときに薦めてもらった本です。マクロ経済学の本の中では面白く、読みやすく書いてある本だと思います。章ごとにまとめや問題も載っています。法律の分野だと憲法から始まり、全体像が大体頭に入っているので、個別の議論に入るときもそんなに不安はありません。でも経済についてはそのような全体像があまり自分の中でなかったので、マクロ経済という全体像を理解するために読みました。

――大学の経済学の教科書でよく使われる本だと思いますが、いま、これを薦める理由は何ですか。

ピンポイントの議論は今の時代には適さないと思っています。最近はツイッターで情報収集をする人が多くなりましたが、その人がフォローしている好きな記事ばかり流れてくるので議論の枝葉の部分だけに注目が集まります。すると、非常に情報が分断化されて、いびつな議論になりがちです。幹になる情報を知らないというのはこれからの時代、より恐ろしいのではないかと思うのです。だからこそ時間がある時には、枝葉の情報ではなく、幹となる情報を意識的に読んだ方がいいのではないかと思います。

――数式などが出てくるので途中でくじけそうです。

わからないところは読み飛ばして、全体をさらっと読むのがいいと思います。わからなくてもまた戻ってくればいいのです。とにかく、経済学の地図、全体像を頭の中に入れておけば、様々な場面で落ち着いて議論に参加できるのではないかと思います。

――『コロナ後の世界』はどのあたりがお薦めでしょうか。

大野和基編(文春新書)

2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏の第6章はコンパクトにまとまっています。金融政策と財政政策は両方とも見なくてはいけないと思っているのですが、この第6章には金融政策で緩和をしながら財政政策で緊縮し、消費税で増税するというのはバランスが悪いということが書いてあります。やはり幹となる情報を得ることが大切だと思います。

――普段はどのくらい本を読みますか。

仕事上、移動が多いので移動が伴うときは本を7冊くらい持って行きます。読むものがなくなって退屈するのが怖いんです。仕事に関わるテーマの本もあれば、小説も好きで読みます。自分が詳しくない分野の本は、知り合いの中で最もその分野に精通している人が薦める本を読むようにしています。

――山口さんご自身はお金に困ったり悩んだりしたことはありますか。

米国留学から帰ってきたとき、仕事が定まらない状態で社会保険料の支払いもままならず、お金がなくて困りました。人はお金が本当にないときは「お金がない」と人に言えないものだと感じました。昼食にカップラーメンは高いからインスタントラーメンにしよう、インスタントラーメンも半分だけにしようなどとやりくりしていました。その時、一体自分は何に困っているのかと考えたのですが、自分の仕事の変動はあっても定期的に得られる収入が別にあった方がいいという結論に至りました。まだ実際に投資商品を買うなどの行動には至っていないのですが、不動産への投資など定期的な収入が得られる運用方法を研究中です。

(川本和佳英)

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